研究課題
本研究は3年の研究期間の中で、低侵襲にアクセス可能な「成体の神経堤由来細胞」を効率的に純化するための特徴的細胞表面マーカーを同定することと、純化した神経堤由来細胞と上皮系細胞よる、積層培養細胞シートの培養系である「間葉-上皮-間葉三層サンドイッチ培養系」を確立し、歯胚再生の可能性について検討する。平成24年度から神経堤由来細胞で特徴的に発現する細胞表面タンパク質の検索するために、神経堤に由来する細胞でGFPが恒常的に発現するP0-Cre/CAG-CAT-EGFPマウスを用いた解析を実施している。当初の計画は、口腔粘膜組織から純化したGFP陽性細胞とGFP陰性細胞についてDNAマイクロアレイを用いて網羅的に比較し、GFP陽性細胞に特徴的に発現する遺伝子発現の解析を計画したが、回収できるRNA量ならびに品質に問題があり、対応策としてGFP陽性細胞の割合が比較的高い唾液腺(顎下腺)組織から単離した細胞を用い解析した。成体P0-Cre/CAG-CAT-EGFPマウスを用いた顎下腺の実体蛍光顕微鏡の観察から、成体マウスの顎下腺には島状に多数のGFP陽性細胞が存在した。GFP陽性細胞は、神経堤関連遺伝子の一つであるSox10の発現が高値を示した。DNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現の比較から、GFP陰性細胞に比べGFP陽性細胞はGpr4、Ednrbの発現上昇、Pdgfra、Pdgfrbの発現低下などが認められた。唾液腺腺房細胞で発現が高いAqp5とAmy1は、GFP陽性細胞で高発現していた。これら幾つかの神経堤由来細胞に特徴的に発現する細胞表面タンパク質の蛍光色素標識抗体を組み合わせから、セルソーターにて高純度で細胞を分取できる細胞表面マーカーを決定する。細胞表面マーカーを指標とした成体組織からの神経堤由来細胞純化法の確立は、遺伝子改変マウス以外のマウスばかりでなく、ヒトへの応用の可能性を含むことから有意義と考える。
3: やや遅れている
口腔粘膜のGFP陽性細胞とGFP陰性細胞によるDNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現の解析は、口腔粘膜真皮からの回収細胞の問題から結果に反映することが出来なかった。原因として、マウス口腔粘膜組織が量的に少ない問題と、組織中に含まれるGFP陽性細胞の割合が低いことが挙げられる。そのためセルソーテングの条件設定についても時間を費やした。GFP陽性細胞の割合が比較的高い唾液腺(顎下腺)組織から純化した神経堤由来細胞を用いたことによって、安定した結果を得た。成体マウス顎下腺の神経堤由来細胞は、特徴的な遺伝子発現パターンを有することが確認され、神経堤関連遺伝子ではSox10の高発現と、細胞表面タンパク質についてはGFP陰性細胞に比べGFP陽性細胞はGpr4、Ednrbの発現上昇、Pdgfra、Pdgfrbの発現低下などが認められた。顎下腺で発現した細胞表面タンパク質が、成体の神経堤由来細胞にとって普遍的に発現する分子か否かについては、他の成体組織における分布・局在、ならびに培養細胞を用いた解析から検討する必要がある。一方、上皮組織からエナメル芽細胞へ分化可能な細胞集団の解析についても、同様に口腔粘膜上皮から採取出来る細胞数が限られるため解析に遅れを生じた。対応として、マウス下顎唇側の上皮組織から単離したエナメル上皮細胞を用い、神経堤由来細胞との共存培養から上皮-間葉相互作用(神経堤由来細胞を用いた象牙芽細胞への分化誘導)についての解析を進めている。
今後「間葉-上皮-間葉三層サンドイッチ培養系」を推進させる方略として、現在、神経堤由来細胞の三次元培養を展開している。顎下腺組織から純化した神経堤由来細胞は、無血清培地においてマトリゲル上で三次元的に培養すると効率良くスフェロイドを形成した。マウス顎下腺から純化した細胞を肝細胞増殖因子(HGF)で刺激すると、対照に比べスフェロイド径の拡大と唾液腺細胞の分化マーカーであるaquaporin-5の発現上昇が認められた。この時、amylaseの発現も上昇した。HGFによってスフェロイド径は培養経過に伴い拡大し、スフェロイド内の神経堤由来細胞(GFP陽性細胞)の占める割合が増加したことから、唾液腺細胞の分化と神経堤由来細胞の関連性が示唆された。一方、GSK-3阻害剤であるBIOで刺激すると、対照に比べスフェロイド数の増加が認められた。しかし、スフェロイド内の神経堤由来細胞の割合は著しく減少したことから、細胞増殖への関与は少ないことが示唆された。顎下腺以外の他の組織から純化した神経堤由来細胞についても、HGFやBIOの効果については、顎下腺以外の他の組織から純化した神経堤由来細胞にも検討する。これらの結果を有機的に組み合わせ、エナメル上皮細胞と神経堤由来細胞と共存下の三次元培養を発展させた「間葉-上皮-間葉三層サンドイッチ培養系」から上皮-間葉相互作用について更に解析を進めていく。
上皮系の細胞についてDNAマイクロアレイを実施しなかったため、平成25年度の研究費を繰り越した。DNAマイクロアレイは上皮組織内のGFP陽性細胞とGFP陰性細胞の比較、エナメル上皮細胞と神経堤由来細胞の共存培養時のそれぞれの細胞、単独培養時の遺伝子発現の違い、それぞれ細胞の組み合わせについて網羅的に解析する。従って前年度繰越された研究費は、DNAマイクロアレイ解析に関わる費用にあてる。DNAマイクロアレイ解析に関わる費用以外には、実験動物としてマウス、細胞培養の際に用いるプラスチック器具、細胞培養用培地・血清、サイトカイン・抗体、マトリゲルなどである。特に、プラスチック器具は、細胞シート回収用温度対応性プレートと、低付着性プレートを含むことから通常の培養プレートに比較して高い費用となる。細胞純化に関わる費用として、セルソーターを用い細胞を純化するための各種蛍光色素標識抗体が高額な費用となり、その他フローサイトメーターの 関連試薬(ビーズ、シース液等)への出費が必要である。さらに三次元培養後の組織形態解析にかかる費用も研究費の中に含まれる。
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