研究実績の概要 |
前年度までに得られた結果をもとに今年度は、In-vivoにおいて侵害刺激に応じるTRGニューロンの興奮性が局所的にパラクリン分泌された BDNFによりどのように変調するかをマルチバレル電極による微少電気泳動法を用いて確認し炎症動物と比較解析した。更に炎症動物の痛覚過敏がBDNF受容体拮抗薬で抑制可能か否かについても合わせて検討した。正常および炎症群のネンブタール麻酔したラットの三叉神経節(TRGs)にマルチバレルのガラス微小電極を刺入して、ユニット放電を、咬筋およびSpVi/Vcの電気刺激に応答するAδTRG-ニューロンより細胞外スパイクを同定した。正常対照群に比較して炎症群では自発放電を持つユニットが増加傾向にあった。炎症群においては微小電気泳動的に投与したBDNF(10ng/ml)により、自発放電頻度の増加が誘発され, 電流依存性に放電頻度は有意に増加した。また咬筋への侵害刺激(von Frey hair)で誘発される放電頻度は電気泳動的に投与したBDNF(10ng/ml)により有意に増加した。これらの増強効果はBDNF拮抗薬(K252a)(10ng/ml)の同時投与により有意に抑制された。これらの結果より、深部組織炎症時に生じる炎症性痛覚過敏の発現に、神経節内においてパラクリン分泌機構により分泌されたBDNFおよびその受容体trkBを介した小型及び中型TRGニューロンの興奮性の増強が重要な役割を演ずる可能性が示唆された。侵害受容性TRGニューロンの細胞体または神経末端から分泌されるBDNFによりその興奮性が制御され、また末梢炎症による痛覚過敏の発現のパラクリン分泌が関与している可能性が示唆された。したがって、三叉神経系の炎症性疼痛にBDNF受容体が新たな分子標的となりその拮抗薬が治療に有効である可能性が示唆された。
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