研究概要 |
TP63(p63)はがん抑制遺伝子TP53(p53)ファミリーに属するが、p63の癌での変異はまれで、口腔・咽頭由来の扁平上皮癌の高分化型で高レベルに発現する。扁平上皮癌の悪性転化とp63の発現消失は相関するので、p63による遺伝子発現の調節に着目した。 下咽頭由来扁平上皮癌細胞FaDuでp63のノックダウンを行い、遺伝子発現プロファイルを行った結果、p63ノックダウン細胞では(1)p63標的遺伝子NOTCH1, JAG2 ,COL7A1,などの発現が1/2-1/3に低下した、 (2) p53標的遺伝子のGADD45A, BAXが1/5以下に低下した、(3) 未分化ケラチノサイト(基底細胞)に特異的なKRT5, KRT14などの発現が1/3-1/7に低下した、(4) Wntシグナル標的遺伝子で、癌の浸潤を誘導するMMP7(Matrix metalloproteinase-7)の発現は5倍以上亢進した、(5)その他のWnt標的遺伝子CCND2, Mycなどは1/2-1/6に低下した。これらの結果から、(A)p63はp63標的遺伝子およびp53標的遺伝子の一部を発現増強する、(B)p63はケラチノサイト幹細胞(基底細胞)に特異的な遺伝子発現と密接に関連する、(C)p63はMMP7を抑制し、p63の消失による悪性転化を合理的に説明できる、(D)p63はWnt標的遺伝子を発現増強する、などが示唆された。 TCF/LEF-結合配列(Wntシグナル標的遺伝子配列:WRE)を用いたLucレポータ・アッセイにより、p63のアイソフォームのうちΔNp63αだけがWRE依存性に遺伝子発現増強作用を示した。核抽出液での免疫沈降によりTCF-4とΔNp63αの会合が確認された。そこでクロマチン沈澱法(ChIP)によりp63、TCF-4、βカテニンについて解析したところ、ΔNp63αがTCF-4、βカテニンとともに特定のWRE配列に結合し、Wntシグナルを増強している可能性が示唆された。ただし、MMP7の上流にはp53/p63標的配列(p53RE)のクラスターがあり、ΔNp63αが結合して発現を抑制する可能性も考えられた。
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