研究課題
本年度は、NAD依存性脱アセチル化酵素SIRT1が抗腫瘍活性を持つサイトカインであるIFN-β遺伝子の発現に及ぼす影響を解析した。はじめに、SIRT1をヒト胎児腎臓293T 細胞に過剰発現させ、核酸(poly(dA-dT))刺激によるIFN-βmRNA発現誘導に対するSIRT1の影響を、qRT-PCR法により検討した。その結果、SIRT1発現細胞では空ベクター導入細胞と比較して、poly(dA-dT)刺激により誘導されるIFN-βmRNAの 発現量が顕著に減少した。この結果から、核酸刺激によるIFN-β遺伝子の発現誘導に対して、SIRT1 が抑制的に働くことが示唆された。次に、SIRT1によるIFN-β遺伝子の発現抑制の作用点を同定するために、IFN-β誘導に関わるシグナル伝達のメディエーターであるRIG-I、MAVS、TBK1もしくはIRF-3(5D)(構成的活性化型IRF-3)と共にSIRT1を293T細胞に過剰発現させ、IFN-βプロモーター活性に対する影響をルシフェラーゼアッセイにより検討した。その結果、いずれのシグナルメディエーターの過剰発現によるIFN-βプロモーターの活性化に対しても、SIRT1は抑制的な効果を示したことから、SIRT1は、IFN-βプロモーターに結合する転写因子であるIRF-3を直接抑制していることが予想された。そこで、SIRT1とIRF-3が物理的に結合するか否かを共免疫沈降法により検討した結果、MAVS の共発現によりIFN-β誘導シグナルを活性化した場合にのみ、IRF-3 とSIRT1 の結合が観察された。以上の結果から、SIRT1は、IRF-3と直接結合することにより、IFN-β遺伝子の発現を負に制御していると考えられる。
3: やや遅れている
SIRT1がIRF-3のアセチル化状態に及ぼす影響の解析が遅れている。理由としては、アセチル化の検出に用いているアセチル化リジン抗体の感度が低い為と考えられる。別種のアセチル化リジン抗体を使用するとともに、アセチル化酵素を過剰発現するなどして検出感度を上昇させて解析を行う予定である。
最終年度である次年度は、SIRT1によるIRF-3依存的なIFN-β遺伝子発現抑制の分子機構を更に進めると共に、その生理的意義の解析を細胞生物学的に解析する予定である。
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Plos One
巻: 20 ページ: e66255
Cancer Lett.
巻: 339 ページ: 82-92