研究課題/領域番号 |
24592840
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
小豆島 正典 岩手医科大学, 歯学部, 教授 (00118259)
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研究分担者 |
寺崎 一典 岩手医科大学, 医学部, 講師 (60285632)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | PET / FDG / SUV |
研究概要 |
本研究期間では、18F-FDGが舌癌より顎骨浸潤を伴う歯肉癌に対し高集積を示すことを統計学的に証明すると共に、18Fあるいは11Cで標識したCholineを用いたPETとを比較し、顎骨浸潤に対する18F-FDG集積の特性を明らかにすることを目的とした。 対象は、歯肉癌35例(顎骨浸潤あり:20例、浸潤なし:15例)、舌癌28例とした。症例は全て組織学的に扁平上皮癌とした。18F-FDGあるいはCholine集積量は、体内に投与した放射能と患者体重とで標準化したSUVmaxとして評価し、以下の成績が得られた。 (1) 18F-FDGのSUVは、顎骨浸潤を伴わない歯肉癌と舌癌とで差はなかったが、歯肉癌が顎骨浸潤を伴う場合、舌癌より大きなSUVを示した。(2) 18F-CholineによるPETでは、舌癌と顎骨浸潤を伴う歯肉癌に対して有意なSUVの違いは認められず、舌癌に対する18F-FDGと同程度のSUVを示した。(3)顎骨浸潤を伴う歯肉癌に対し、18F-FDGは18F-Cholineより高い集積を示した。 18F-FDGを用いたPETでは、顎骨浸潤を伴う歯肉癌で大きなSUVを示す理由には2つの可能性がある。1つは18F自身が骨のハイドロオキシアパタイトへ結合すること、他方は18F-FDGが破壊された骨の近傍にある骨代謝関連細胞へ集積している可能性である。しかし18Fで標識したCholineは、舌癌に対し18F-FDGと同等の集積を示すにもかかわらず、顎骨浸潤症例に対しては大きな違いを示さない。すなわち18F自身のハイドロオキシアパタイトへの結合は少ないと思われる。これらの成績から、18F-FDGはCholineと異なり腫瘍細胞のみならず、骨代謝に関連するosteoblastやosteoclastなどの骨代謝関連細胞へ集積し、見かけ上SUVが高値を示している事が推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歯科医療センターを受診した口腔癌(扁平上皮癌)の患者に対し、18F-FDGを用いたPETを当初年度内に15例遂行する予定であったが、36例のPETを行うことができた。18F-Cholineを用いたPETについては、以前のデータを比較することができ、研究実績の概要に示す成績が得られたが、口腔底癌については症例が少なく統計的な比較ができなかった。研究の考察として、18F-FDGはCholineと異なり腫瘍細胞のみならず、骨代謝に関連するosteoblastやosteoclastなどの骨代謝関連細胞へ集積し、見かけ上SUVが高値を示している事を推測した。しかしながら文献的に骨浸潤巣に存在する癌の幹細胞は、粘膜に限局している幹細胞と性質が異なるという報告があり、このことが歯肉癌でも生じているとすれば、未だ18F-FDGが骨浸潤を伴っている癌細胞へ良く取り込まれているという可能性は捨てきれない。骨浸潤を伴う癌細胞では特に糖代謝亢進しているか否かを調査するには、in vivoで証明することが必要であるが、今後の研究課題として残されている。 症例数は少ないものの、今期で行われた研究結果をまとめ2012年10月には日本核医学会にて、演題名「下顎歯肉癌の顎骨浸潤様式と18F-FDG集積との関係」を発表できた。現在、原著論文として執筆中であり、今期の成果についてはおおむね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
18F標識PET薬剤を合成するために、標識前駆体である18F-臭化フルオロメチルの自動合成装置を小型化し、筆者らが開発したオンカラム法による全自動合成装置で18F-コリン注射剤を製造する。PET 検査は、18F-コリン投与後直ちに行い、画像データを収集する。その後、同装置に付属する CTで腰部から頭部にかけ撮影し、CT 撮影データを得る。PET/CTのデジタルデータ現有の画像処理用PC (Dr.View,AJS 社)に転送し、フュージョン画像を得る。PET/CT のフュージョン画像で集積部位を確認しながら原発巣を舌・歯肉・口腔底などに分け、それぞれに対し18F-コリンあるいは18F-FDG集積量をSUV の最大値として数値化する。臨床研究としては、舌癌・歯肉癌・口腔底癌それぞれ10症例以上のPETを行うことに重点をおき、統計学上確固たる成績を得る。 これまでに得られた原発巣の病理標本、あるいは培養癌細胞HeLaを用い、コリン輸送蛋白を蛍光抗体で標識し、イメ ージングサイトメーターでこれらの発現量を求め、SUVおよび細胞周期の関連を分析する。同時に、原発巣の大きさや分裂頻度がこれらの活性に依存しているか否かを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
この研究を遂行する上で、多くの経費を占めるのは18O濃縮水(年間50万円)である。18O-濃 縮水は、サイクロトロンを用いた核反応18O(p,n)18Fによる[18F]フッ素イオンの製造に用いられ、18F-コリンと18FDGの合成に使用する。通常、95%以上の18O-濃縮度のものが用いられるが、天然の同位体存在比0.2039%から濃縮するため価格が高い。 PET・CTのデータは、写真グレードのA4プリントとして記録・保存している。そのプリンター用の消耗品として、「サーマルフォトプリントセットRA4-DT340」を2セット購入する予定である。 培養細胞のコリン輸送蛋白の活性を調べるために現有のフローサイトメーターをする。その試薬類の購入を予定している。 旅費は、各年度成果発表を予定しているが、平成25年度では国際学会での成果発表を予定している。その他に「サイクロトロンセンター使用料」年額 20 万円を計上した。また、患者の搬送には公的な交通機関で搬送することが倫理委員会で決められているので、年間 15 回分のタクシー代(1回 1 万円)を支出予定である。
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