研究課題/領域番号 |
24592841
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
水口 純一郎 東京医科大学, 医学部, 教授 (20150188)
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キーワード | 扁平上皮癌 / 癌幹細胞 / 炎症 / 転移 |
研究概要 |
扁平上皮癌の発生・進展には癌遺伝子や癌抑制遺伝子などの遺伝要因およびタバコ、アルコール、ウィルス、及び炎症などの環境要因が協同的に作用していると推定されているが、その詳細については不明の点が多い。本研究では、扁平上皮癌の発症における遺伝子産物の役割および炎症反応が腫瘍の転移にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的としている。 扁平上皮癌細胞株を用いて、スフェアーを形成し、化学療法剤に抵抗性を示すという癌幹細胞様の性質の維持・増殖に癌遺伝子PI3キナーゼーAktシグナル伝達経路が関わっていることをin vitro測定系で明らかにすることができた。これらの細胞増殖・分化はアルギニンメチル化などの修飾を受けていることを示した。炎症反応の発現には種々のサイトカインが関わっていることが知られているが、今回Th2型サイトカインによって誘導される炎症が癌の転移にどのような影響を及ぼすかを検討した。アジュバント非存在下に卵白アルブミン(OVA)を腹腔内および経鼻的に投与することにより、気道・肺の炎症を誘導し、B16F10腫瘍細胞の肺転移を検討したところ、転移の亢進が観察された。また、抗炎症性サイトカインIL-10を欠損した(IL-10 KO)マウスでも、腫瘍の肺転移が増強した。しかしながら驚いたことに、IL-10 KOマウスにTh2型気道炎症を惹起すると、腫瘍の肺転移は抑制された。これらの複雑な転移機序を解明する第一歩として、ケモカインおよびケモカイン受容体の役割を検討した。B16F10腫瘍細胞にはケモカイン受容体CXCR3が発現しているが、そのリガンドであるケモカインCXCL10の肺における発現と肺転移の程度には正の相関が認められたことから、CXCR3-CXCL10系が肺転移に関わっていると推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
癌の発生・進展および転移は遺伝要因と環境要因によって調節されている。扁平上皮癌の発生・維持には癌幹細胞が関わっていると推測されているが、その性状には不明の部分が多い。癌幹細胞(様)のマーカーを有している細胞集団を同定し、その維持・増殖にPI3キナーゼーAkt経路が関わっていることを示した。また、炎症反応は腫瘍の進展や転移に関わっていることが報告されているが、その機序は未だ明らかにされていない。今回、Th2型サイトカインによって誘導される気道炎症は腫瘍細胞の肺転移を促進させたが、抗炎症性サイトカインIL-10 KOマウスに気道炎症を誘導した系では、肺転移は抑制された。IL-10 KOマウスでは、野生型マウスに比べて、転移の亢進が観察されていた。一見すると、矛盾するような転移の機序として、腫瘍細胞に発現しているケモカイン受容体と肺組織におけるケモカインによる系が働いていると推測された。すなわち、ケモカイン/ケモカイン受容体系を介して炎症細胞が炎症局所へリクルートし、炎症反応が成立しているが、腫瘍細胞がこのシステムをハイジャックし、炎症部位への転移を促進していることを明らかにすることができた。以上より、研究計画はほぼ順調に進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
扁平上皮癌細胞株を用いたin vitroの解析により、PI3キナーゼーAkt経路が癌幹細胞様の維持・増殖に関わっていることが明らかとなった。今後、in vivoにおける腫瘍形成や転移能などを検討し、癌幹細胞の性状を明らかにすることによって、これらのシグナル伝達系に対する抑制剤を用いた新規治療法の開発に繋げたい。また、腫瘍の進展・転移に炎症反応が関わっていることが知られているが、Th2型サイトカインによってもたらされる炎症がケモカイン/ケモカイン受容体の発現制御を介して、腫瘍細胞の肺転移を制御していることが示されたことから、抗体あるいはmicro-RNAによる特異的な発現調節を用いた肺への転移抑制を試みたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
細胞株を用いた解析は順調に進行しているが、初年度におけるマウスレベルでの解析がやや遅れたため、予定通り消耗品を消費することができなかった。 次年度には、マウスレベルおよび細胞レベルでの解析が順調に進行しており、今後マウスにおける炎症反応の有無および転移形成との関連性を追求し、学会や原著論文の形で発表していきたい。
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