本研究では、歯髄炎の病態形成における炎症-抗炎症バランス制御機構を明らかにすることを目的とし、エフェクターT細胞やプロスタグランディンの役割を中心に解析を進めてきた。これまでの研究で、Th17細胞関連ケモカインレセプターであるCCR6を発現した細胞が歯髄炎組織に認められたことから、最終年度はCCR6リガンドであるCCL20に着目し、インターロイキン(IL)-17をヒト歯髄細胞に作用させたときのCCL20発現について検討した。その結果、IL-17濃度依存的にCCL20の産生が上昇することが示された。さらに、IL-17刺激したヒト歯髄細胞に、炎症性サイトカインであるIL-1を加え共刺激したときのCCL20発現について検討したところ、CCL20産生誘導が相乗的に増強されることが示された。 研究期間全体を通して、歯髄細胞はエフェクターT細胞から産生されるインターフェロン(IFN)-γやIL-17に応答し、CXCL10など様々な炎症メディエーター産生を誘導することやIL-1存在下ではその反応性が増強されることが示された。一方、プロスタグランディンF2alpha(PGF2α)は、自然免疫受容体に対するリガンド刺激にて活性化された歯髄細胞に対し、CCL20産生を相乗的に増強させるがCXCL10産生をPGF2α濃度依存的に抑制させることが示された。これらの結果より、細菌由来因子など自然免疫受容体に対するリガンド、エフェクターT細胞から産生されるIFN-γ等のサイトカインおよびIL-1等の炎症性サイトカインは歯髄組織構成細胞である歯髄細胞を活性化するが、PGF2αは一部の炎症メディエーター産生を抑制することから、歯髄炎の病態における調節的役割を果たしていることが示唆された。
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