研究課題/領域番号 |
24592874
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
池田 毅 長崎大学, 大学病院, 講師 (90244079)
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研究分担者 |
山田 志津香 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (00363458)
池田 香 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 研究員 (20578330)
石崎 秀隆 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (80569963)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 遺伝子導入 / 未分化維持 / SiRNA / ノックダウン |
研究概要 |
我々の教室では4因子と3因子導入マウスiPS細胞を用いた低酸素培養下での増殖・分化、骨芽細胞誘導時における影響について検討し、低酸素培養(5%O2)では通常培養(20%O2)より未分化状態を維持していることがわかった。低酸素環境下では、幹細胞やES細胞ではHIF(hypoxia inducible factor)の働きにより未分化状態が維持されていることが報告されているが、iPS細胞でもHIFの働きによるものが推察される。そこで、本研究では低酸素環境下でのHIIFの働きについて検討した。 [材料および方法]実験には理研CELL BANKより購入したマウスiPS細胞を用い,MEFを播種したDish上に5日間培養した。継代時にsiRNAをトランスフェクションした3因子導入マウスiPS細胞を48時間培養した。SiRNA導入48時間後に細胞を回収し、細胞形態、Nanog,Sox2,Oct4のmRNA発現量を比較した。対照群として、AllStars Negative Controlsをトランスフェクションしたものを用いた。 [結果]SiRNAを導入し、HIFsをノックダウンしたときのiPS細胞のコロニーの形態学的観察を行った。HIF1aをノックダウンしたもののでは、対照群と同様にiPS細胞のコロニーを形成した。しかし、HIF2aをノックダウンしたものでは、コロニーは形成するもののコロニーサイズが減少していた。HIF3aをノックダウンしたものでは、HIF1aをノックダウンしたときと同様に、対照群と同じようにiPS細胞のコロニーを形成した。 [考察および結論]低酸素環境下では、iPS細胞はHIF(hypoxia inducible factor)の働きにより未分化状態が維持されていることが推察される。その中でも、HIF2aの働きによりiPS細胞の多能性は調節されていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今後のiPS細胞を利用した移植療法を展開するにあたり、まず第一には細胞間接着分子E-カドヘリンのモデル分子である固定型E-cad-Fcキメラタンパク質を用いた単一細胞レベルで分散させ、未分化状態を維持させながら増殖させ、iPS細胞の均質化ならびに大量増幅を目指すことになる。次いで特定の細胞への分化誘導型培養を確立させる。すなわちSDF-1-CXCR4(リガンド-受容体ペア)を利用した歯髄幹細胞遊走分離法を用い、硬組織誘導培養系へのFish Collage Peptide(FCP)添加により象牙芽細胞への分化誘導促進化を確認・評価する。さらにFCP由来多孔性担体を用い三次元組織培養を行った細胞-坦体複合体として、前臨床試験としての動物組織での再生効果を検証し、最終的にはGMP準拠の加工施設内でのヒト歯髄幹細胞の品質管理保証体制を構築し、ヒトへの細胞移植療法の臨床試験を目標に設定しているが、まずはiPS細胞の均質化ならびに大量増幅についての未分化維持方法の手がかりを見いだすことが可能となった。またFCP多孔性担体やゲル状scaffoldの試作も行っており、現時点では順調な進捗状態と考える。
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今後の研究の推進方策 |
最近多能性幹細胞を浮遊培養することで三次元的な立体構造を有する細胞凝集塊、すなわち胚様体形成させることで各種組織幹細胞へ分化可能となる誘導法(胚様体形成法)を形成させる試みが報告されており(Nat Neurosci 8:288-96,2005)、レチノイン酸(RA)添加によるES細胞の分化誘導に準じて、大学既設のセルソーターを用いて細胞表面マーカーとしてCD105陽性かつCD31陰性の分画となる細胞を分取し、幹細胞マーカーであるCD29、CD44、CD73およびCD90が陽性となることをフローサイトメトリック解析し、血管新生能および神経再生能を有する歯髄幹細胞であることを確認する。しかしながらCD105陽性細胞をセルソーティングで分取する場合臨床上安全性に問題があり、GMP準拠の装置を準備することも実際的ではなく、また抗体ビーズ法の利用も高価となるため、将来のヒトへの臨床応用を想定した分化誘導の効率化が想定した場合は、国立長寿医療センターによって開発された歯髄幹細胞膜遊走分離法の技術支援を受ける計画である。この原理はCD105陽性細胞においてケモカインであるCXCR4の分泌が高く、このCXCR4はSDF-1をリガンドとするレセプターであり、CXCR4の発現が高いということはSDF-1に対して遊走能が大きいという性質を利用して、分離膜を介在させた分離法を利用することとなる。
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次年度の研究費の使用計画 |
FCPを酢酸にて溶解させ、0.5,1,2%濃度に調整後、凍結乾燥処理を行い、さらに0.1MEDCを架橋剤として用い物理的強度を向上させた状態で、申請備品である真空低温乾燥器を用いて5%アンモニア溶液に浸漬し密閉槽内で20h反応させることにより発生する気体の均一な揮発効果により連通状気孔、すなわちハニカム状トンネル型多孔体が作成する(Biotechnol Bioeng 95:404-411,2006)。その際、坦体への細胞接着が良好となり移植部位からの細胞拡散を防止するため、pore sizeが100~300μm、気孔率が70~80%になるよう溶液の濃度調整を行い走査型電子顕微鏡にて確認する。しかしながら歯科治療を想定する場合、術野が狭く象牙質欠損部と同サイズの移植体を作製し露髄部へ固定することは非常に困難であることが予想されるため、多孔体よりも直接注入移植可能なゲル状Scaffoldを作製し移植細胞を包埋する方法も本格的に検討するため、その作成にあたり生体親和性材料や機器類の購入予定である。 硬組織再生促進化のための培養技術では、細胞の坦体への侵入効率と坦体内での増殖、分化の促進化が重要になってくる。そこで細胞侵入効率を上げるために減圧下(-100mg)で播種を行い多孔質体の中心部まで侵入させ、その結果細胞の基質形成能を上昇させる。これにより従来法よりも短期間での生体内への培養細胞移植療法が実現可能となる。具体的には細胞播種から2~3週間後の生体内移植を目標とするために、臨床応用開始前動物実験も予定している。
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