歯科診療補助は歯科衛生士の業務の1つであり,器具の受け渡しは歯科診療を円滑に進める上で欠かせない行為である.安全な医療を患者に提供するにはヒューマンエラーが発生しないよう,術式を理解した上で次の行為を予測し,確認しながらアシストを行うよう指導している.しかしながら,現在の教育方法では臨床実習にあがるまでのスキルの獲得が十分になされておらず,臨床現場では歯科衛生士学生による器具の受け渡し時の器具刺しや器具の向き違いなどのエラー報告は少なくない.現行の教育では「見て確認しなさい」等と指導を行っているものの,実際はどのように歯科衛生士学生が視線を配っているかははっきりしておらず,我々が行っている教育が安全かつ迅速な診療を行うためのエラー削減に繋がっているかは疑問である.これを解決するにはエラーを科学的に分析し,見るポイントを具体的に指示するなどの対策をとることが必要であると考える. そこで,我々はヒューマンエラー削減に繋がる教育を確立することを目的として“見るポイント”を指導した学生(視線教育型)と指導していない学生(従来型)の器具渡しの一連の動作について眼球運動を測定し,エラーの発生率と視線の配り方の比較を行い,さらに臨床経験のある歯科衛生士の視線の配り方を加え分析を行った. その結果,視覚素材を用いた実技の伴わない講義のみによる教育ではエラー削減にまでは至らなかったが,視線の配り方に変化がみられることが明らかになった.視線教育型では,視線の動きに無駄が少なく課題に集中できるためエラー削減に繋がると考える.また,迷いや不安が視線に反映されることで,エラーを起こす可能性の高い学生を選別し指導することも可能である.以上から今回ではエラー削減までは至らなかったが,実習の教育効果を評価する方法の1つとして眼球運動の測定は有効であると結論される.
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