本研究の目的は,咬合挙上により実験的に固有口腔を拡大した健常成人有歯顎者に対し,PAPの装着が嚥下時の舌と口蓋の接触様相に与える影響を検討することである。 被験者は10名(男性4名、女性6名)である。実験条件は、実験的スプリント(5mm 咬合挙上)のみ装着した場合,スプリントと実験的口蓋床を装着した場合,スプリントとPAPを装着した場合、何も装着しない状態(コントロール)の4条件とした。実験1として簡易舌圧測定器を用い、舌が上顎口蓋部を押す、最大舌圧を測定した。また実験2として嚥下時の舌圧測定を、舌圧測定システムを用いて測定した。試験食品として水10mlおよびゼリー10gの2種類を用いた。被験者の上顎模型およびPAPを装着した模型を3次元スキャナーを用いてスキャンし、3次元形態データをPCに入力し両者の3次元データを重ねあわせ、PAPの厚みを計測した。統計解析は二元配置分散分析およびTukey の多重比較を用いた。 実験1からは以下の結果が得られた。1)スプリント装着により固有口腔が拡大されると、半数の被験者で舌圧の低下を認めた。2) 舌圧の低下した被験者にPAPを装着すると、80%で舌圧の改善が認められた。3) 舌圧の変化量とPAPの厚みに相関は認められなかった。実験2からは以下の結果が得られた。1)スプリント装着により水嚥下時の口蓋正中部の舌圧は半数の被験者で有意に低下した。つぎにPAPを装着すると舌圧の改善が認められた。2)舌圧の変化には食品差があり、ゼリー嚥下時では口蓋正中部の舌圧はスプリント装着による変化が少なかった。3)舌圧の変化は部位により差もあり、口蓋側方部では、水嚥下、ゼリー嚥下時ともにスプリント装着による有意に舌圧の低下する被験者が少なかった。 以上の結果から舌の接触が低下した者において、PAPを装着することで舌圧が改善する可能性があることが示唆された。
|