研究課題
発音はコミュニケーションを図る上で必要不可欠な口腔機能で,患者自身の主観的評価が重要な咀嚼,嚥下機能に対し,発音は他者が明瞭に聞き取れるかの客観的評価が要求される.しかし一般の歯科補綴治療では義歯装着の際,歯や粘膜の痛み,咬合,清掃状態等を精査するが,発音の確認はまれで患者がスムーズに話せるか,術者が聞き取りやすいか等の主観的な判断に頼っているのが現状である.患者も発音への意識は薄く,訴えは少ないが,義歯装着後に電話の会話が通じにくい,息の抜けが悪い等の症状は少なくない.歯科医は発音と義歯の形態,デザイン(設計様式)との関係をよく理解し,義歯の装着,調整を行う必要がある.筆者らは音声認識システムを導入し,簡便な録音機器とノートパソコンを用いて,チェアサイドで使用可能な発語機能評価システムを開発し,特定の被験音の明瞭度を評価し,義歯装着時の発語機能評価を可能としたが,義歯装着時の発音の不具合をどのように判定し,どの部位をどれだけ調整すればよいかの明確な指針が得られていない.そこで本研究では各音節に対応して口腔諸器官の動きを視覚的に再現し,発音障害の生じる義歯の部位を明示するプログラムを作成して,義歯装着時の発語機能の評価法,義歯の調整法を確立することを目的とした.本年度は健常者,欠損歯列者の構音中の舌,口唇,軟口蓋部等の諸器官の動きと,発音の違いを記録,分析し,特に欠損歯列者の義歯装着時の構音中の舌の動きを,各音節に対応して視覚的に分かるようなプログラムの開発に取り組んだ.また従来の音声分析プログラムで発音時のアクセントを推定するために,基本周波数のF0を計算する機能を追加した.その他に分析用ファイルをcsvファイルに保存する際に,自動的に音声セグメントラベルに保存できる機能を追加し,より操作性,機能性が向上した.
2: おおむね順調に進展している
新義歯装着時に発音機能をどのようにチェックし,発音障害を生じた際に義歯のどの部位を修正するかの十分な指針がないため,音声認識による発語機能評価システムを用いて,部分床義歯装着時の発語機能の変化を分析し,構音中の口腔諸器官の動態をモニター上に再現して,その調整法を診断するのが最終目的となる.3年次の2年目で以下の目標の1.について,健常者,欠損歯列者について計測,分析を進めた.また目標の2.について各音節に対応する舌の動きを,矢状面模式図のパターンを作成した.したがって1.2.の目標についてかなり進展したと評価される.1.健常者,欠損歯列者の構音中の舌,口唇,軟口蓋部等の諸器官の動きと,発音の違いを記録,分析する.2.欠損歯列者の義歯装着時の構音中の舌の動きを,各音節に対応して視覚的に分かるよう再現し,発音障害の程度,相当する義歯の部位を明示するプログラムを作成する.
3年次は2.の構音動態可視化システムの構築に向け,プログラム作成の作業を進める.そして発音障害の程度,調整すべき義歯の部位を明示するプログラムを開発し,義歯装着時の発語機能の評価法,義歯の調整法を確立することを目標とする.また最終年度のまとめとして国内外での会議,学会等で成果を発表し,報告書を作成する予定である.
最終年度は海外での成果報告,情報収集と,構音時の舌運動可視化&発音障害分析プログラムの作成を予定しているが,予算の配分額が少ないため,次年度に補填した.次年度は義歯装着時の構音中の舌,口唇,軟口蓋部等の諸器官の動きを分析し,各音節に対応して舌の動きを視覚的に分かるよう再現できる可視化プログラムと,発音障害の生じる義歯の部位を明示するプログラムの開発費を主に研究費を使用する予定である.また最終年度のまとめとして会議,口演,情報収集,報告書作成のための諸経費に使用する予定である.
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日本音響学会2014年春季研究発表会抄録集
巻: 2014年春季号 ページ: 2-P5-30
J J Mag Dent
巻: 22 ページ: 47-53
日本音響学会2013年秋季研究発表会抄録集
巻: 2013年秋季号 ページ: 3-P-48