本年度の研究は、前年度までの実験結果に基づいて、クロロフィル誘導体(CLD)を利用した接着システムを試作し、ヒト歯根象牙質に対する微小引っ張り接着強さを評価し、さらに重合反応の解析を行うことが主目的であった。実験では、象牙質表面を10%リン酸でエッチングした後、1x10-7 mol/g CLDと35% HEMAを含有する水溶性プライマー、1x10-6 mol/g CLDと35% HEMAを含有する水溶性プライマー、あるいはCLDを含有せず35% HEMAのみ含有する水溶性プライマーを塗布し、4-META/MMA-TBB接着性レジンを用いてレジンブロックと接着した。接着した試験片を37℃水中に48時間浸漬した後、微小引っ張り接着試験に供した。その結果微小引っ張り接着強さは、1x10-7 mol/g CLDを含有するプライマーの場合44.6 MPa、1x10-6 mol/g CLDの場合33.0 MPa、CLDを含有しないHEMAプライマーの場合30.9 MPaであった。また比較対照用とした市販接着性レジンセメントでは、RelyX Ultimateが33.3 MPa、Panavia F2.0が22.9 MPa、Multilink Automixが15.5 MPaであった。一方、DSCを用いた4-META/MMA-TBBレジンの重合時間測定の結果は、1x10-7 mol/g CLDプライマーを添加した場合は6.40分、1x10-6 mol/g CLDプライマー添加の場合は7.17分、CLDを含有しないHEMAプライマーの場合は7.24分であった。以上の実験結果から、CLDとHEMAを含有するプライマーには象牙質の接着改善効果があること、CLDには試適濃度が存在すること、CLDが接着界面においてレジンの重合を促進していることが示唆された。
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