本研究は口腔内で多用されるアクリルレジンに抗菌性を付与することを目指し,レジンの物性を損ねることなく抗菌性界面活性剤を添加する方法を確立することを目的とした. 平成24~25年度:抗菌性を有する陽イオン性界面活性剤の塩化セチルピリジニウム(CPC)はレジン液剤に全く溶解しないため,アクリルレジンに均一添加する粉液重合法を検討した.粉末CPCをレジン粉剤と一様に混ぜてレジン液剤と混和する「単純添加法」と,粉末CPCと液剤の共溶媒であるエタノールにCPCを溶解してから液剤に加えた均一溶液を粉剤と混和する「共溶媒法」を比較した.水中浸漬後,単純添加法では配合量に応じたCPCの溶出を認めたが,機械的性質(ビッカース硬さ,曲げ強さ,弾性率)の低下はみられなかった.レジン重合体中にはCPC粉末が目視でき明らかに不均一であった.共溶媒法では吸水による重量増加が認められたがCPCの溶出はごくわずかで,CPCは材料内に留まることがわかった.重合体は均一であったが,機械的強度の低下と褐色への変色が顕著であり,これは共溶媒であるエタノールの作用によると推測された. 平成26年度:重合体の内部構造が不均一になる単純添加法よりも,均一構造の得られる共溶媒法が好ましいと考え,共溶媒(エタノール)の添加率がレジン重合体の機械的強度と変色(CIE L*a*b*表色系で測色)に及ぼす影響を調査した.その結果,(1) 液剤に対して25%v/vまでの添加であれば強度低下,変色の影響は非常に小さい,(2) 調製後,減圧等により残留エタノールを除去することで強度が回復し,変色の程度が小さくなることが示され,(3) 強度低下因子としてエタノールの可塑剤効果と重合抑制による低重合度高分子の生成が考えられた.この知見に基づき,可及的少量の共溶媒の使用でCPCを均一に配合した抗菌性アクリルレジンの調製が可能になると結論された.これを,抗菌効果と併せ今後確認する.
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