研究課題/領域番号 |
24592953
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
大川 成剛 新潟大学, 医歯学系, 助教 (80143791)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 電解 / ハイブリッド被膜 / マグネシウム合金 / リン酸カルシウム / チタン |
研究概要 |
電解析出によるリン酸カルシウムの粒子と電解重合により生成する有機被膜とのハイブリッドの創製を目的としている.はじめに,リン酸カルシウム水溶液中で,白金板をアノードに,マグネシウム合金やチタンをカソードとして定電流または定電圧電解すると,電解初期にブルシャイトがカソード表面に析出し,電解を続けるとその結晶がアパタイトに転移することが確認された.つぎに,有機被膜とのハイブリッドを創製するために,電極表面にMMA(メチルメタクリレート)の電解によるPMMAの被膜生成を検討した.ハイブリッド膜を電解によって創製するために,有機膜に導電性が求められる.そこで,重合禁止剤を除いたMMAにチオフェン系導電性モノマーT2347と支持電解質TBAPを含む電解液を調整した.この電解液を電解セルに入れ恒温槽中で白金板をアノードに,マグネシウム合金または陽極酸化したチタンをカソードとして,一定電流密度で電解処理した.その結果,カソード表面にゲル状の膜が生成した.マグネシウム合金はやや茶褐色になった.つぎに電解処理した試料を30-40°Cで乾燥させると透明な被膜となった.電解液中の導電性モノマーの濃度が均一な有機被膜の生成に寄与することがわかった.生成した被膜のFTIRの結果から,導電性モノマーとPMMAに由来する官能基が確認された.また,XPSスペクトル解析からPMMAに帰属する特有のC1sとO1sスペクトルが得られた.さらに導電性モノマー由来のS2pのスペクトルも確認された.したがって,生成した有機被膜はPMMA様で,導電性モノマーを含むことがわかった.このように,電解による無機-有機ハイブリッド膜を創製する準備ができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究達成目標は,電解による有機被膜の生成とその化学的特性の解析をおこない,最適な電解条件と電解液の組成を決定することである.そのために,1. マグネシウム合金やチタンの研磨と電解液の調製.2. プレ電解および電解処理条件の検討.3. 電解によって生成した有機被膜の組成や原子団の特定にはフーリエ変換赤外分光(FTIR)やX線光電子分光(XPS)を用いて分析をおこなった.チオフェン系導電性モノマーや支持電解質を含むMMAを電解液とし,白金板をアノード,マグネシウム合金やチタンをカソードとして定電流電解したところ,カソード表面にゲル状の有機被膜が生成することがわかり,ほぼ予想通りの結果が得られた.ただ,実験で求めた電解液の組成が最適かどうかは決定できなかった.電解による有機被膜の生成に影響する因子を検討するために,電解条件,すなわち電解液中の導電性モノマーと支持電解質の濃度や電流密度および電解液の温度を変えた.その結果,電解液中の導電性モノマーの濃度が均一な有機被膜の生成に寄与し,カソードの金属材料に依存しなかった.有機被膜は,電解終了時はゲル状であるが,乾燥後は透明で強固な被膜となった.FTIRおよびXPSによる分析から,有機被膜は導電性モノマーを含むPMMAと推測された.以上のことから,電解によりマグネシウム合金やチタンに有機被膜をコーティングすることができた.さらに,有機被膜の生成と電解条件との関係を検討している.このように研究課題はおおむね順調に進展していると思われる.
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今後の研究の推進方策 |
電解によって金属基板へ有機被膜を生成する電解液と有機被膜の生成挙動および電解条件の関係をさらに検討する.金属表面の状態,すなわち酸化皮膜の厚さや研磨状態が電解による有機被膜の付着挙動にどのように影響するのかをクォーツクリスタルマイクロバランス(QCM)による粘弾性測定と質量変化から検討する.また,無機-有機ハイブリッド膜を生成する方法として次の2つの方法を検討する.まず始めに金属基板に有機薄膜をコーティングし,つぎにリン酸カルシウムを電解により有機薄膜上に析出させる.これら一連の操作を繰り返すことで,目的とするハイブリッド膜を創製する.第二の方法は,電解によって有機薄膜を生成する電解液にリン酸カルシウム水溶液を混合し,これを電解液として用いる.混合液は二相に分離すると考えられるが,リン酸カルシウムの成分は有機相に分配されるとすれば,電解によって生成するPMMA様の被膜にはリン酸カルシウムが分散したハイブリッド膜が創製されると思われる.つぎに創製したハイブリッド膜をフーリエ赤外分光(FTIR)やX線分光(XPS)により分析し,その化学的特性を解析する.ハイブリッド膜に含有する無機化合物はX線回折(XRD)により結晶性の同定と定性をおこなう.また,原子間力顕微鏡(AFM)を用いて被膜の表面形状を観察する.さらに金属基板への有機被膜と無機化合物の付着および析出の挙動と電解条件との関係を明らかにし,生体活性であるリン酸カルシウムと有機被膜のハイブリッド構造をもつ機能性材料の創製を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
1. 最適な電解条件を決定するために種々な導電性モノマーやイオン液体とMMAとの混合比を求め,電解による有機被膜の生成を検討する.このためにそれらの試薬を購入する. 2. マグネシウム合金やチタン表面に生成した有機被膜の化学的構造を表面分析装置(XPS)により検討するために,装置のオペレートとデータ解析に専門技能を持った人を雇う. 3. 研究成果の国際学会および国内学会での発表に関する費用と論文投稿費用に使用する.
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