本研究では、iPS細胞を間葉系幹細胞(MSC)へ分化させることを目的としていた。結果的には様々な分化方法を試みたものの、我々の研究室ではiPS細胞からMSCへ分化させることは出来なかった。そこで、本研究の最終目標である「歯周組織再生」に、MSCを用いることとした。 我々はチタンインプラント表面への歯周組織構築を目指し、歯周組織再生型インプラントの開発を試みた。チタン表面への歯周組織構築には、歯根の発生期を模倣し、エナメルマトリックスタンパク(EMP)を用いた。EMPを固定したチタンディスク(EMPチタン)上では、MSCは有意にVEGFの産生が亢進し、細胞障害性はなかった。歯根最表層に形成されるセメント質に着目し、セメント芽細胞のマーカーについて解析した。EMPチタン上ではセメントマーカーのCEMP1、CAPいずれも遺伝子発現が亢進しており、Nogginの添加でCEMP1の発現は更に亢進した。CAPについてはNogginの影響は見られなかった。Alizalin Red 染色によりEMP添加で石灰化物の沈着が確認されたが、Noggin の添加でやや石灰化の抑制が見られた。CEMP1のタンパク発現解析を細胞免疫蛍光染色法にて行ったところ、EMP刺激のMSCでは細胞質内にCEMP1の発現を認めた。さらに、歯根形成や歯周組織形成が低酸素状態で起こることが報告されていることから、EMP存在下にて低酸素模倣剤であるDFOを添加することで、CEMP1の発現が亢進することが示された。 本研究では、MSCからCEMP1陽性細胞へと分化させることができた。しかしながら、その細胞がセメント芽細胞であることは証明されていないため、さらなる検討が必要である。
|