研究課題/領域番号 |
24592965
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
中川 種昭 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (00227745)
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研究分担者 |
森川 暁 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (00424169)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 歯周組織幹細胞 |
研究概要 |
歯周組織を再生させる能力がある組織幹細胞としてこれまで歯根膜幹細胞(Periodontal ligament stem cells: PDLSCs)や歯髄幹細胞(Dental pulp stem cells: DPSCs)が報告されている。PDLSCsやDPSCsは、歯髄あるいは歯根膜組織を培養皿上で接着培養していく過程で、付着増殖した細胞をPDLSCsあるいはDPSCsと定義し、その性質が調べられてきた経緯がある。そのためこれまで得られた知見は、前駆細胞の混入や培養による性質変化の可能性が否定できず、実際の歯周組織幹細胞の本質を明らかにするには不十分であると考えられる。本研究では、マウスおよびヒト歯周組織幹細胞を特異的細胞表面マーカーによって、フローサイトメトリーで直接分離し、歯周組織の恒常性維持に関与する、あるいは炎症によって破壊された組織を再生させる可能性を有する細胞を明らかにすることである。計画している具体的な研究項目は①歯根膜幹細胞、歯髄幹細胞を間葉系幹細胞および神経堤幹細胞マーカーを指標にフローサイトメーターにより分離し、その性状を解析する実験系を構築する。②実験的慢性歯周炎発症後の全身および局所における血液細胞と間葉系細胞の動態を解析する。③実験的歯周炎を惹起させたときの組織破壊と治癒様式を歯周組織幹細胞の視点からその動態を解析する、の3つである。平成24年度は研究項目①を重点的に行い、マウスの長管骨と顎骨には神経堤由来MSCsが存在し、その割合は歯周組織を含んだ顎骨の方が高いことを確認した。このことから長管骨や歯周組織には神経堤由来MSCsやそこから派生した間葉系細胞が、血管・骨・脂肪・末梢神経・線維芽細胞等への分化能を有することで、複雑な歯周組織の恒常性を維持し、バイオフィルム由来の慢性炎症に対し、組織破壊と組織再生の仲介役を担っていると予想している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
この1年間はマウスを中心に実験を行っているが、ヒトの検体については倫理委員会申請書の作製が遅れているため、着手できない状態が続いている。現在、歯周外科手術時に患者から得られる歯槽骨、骨膜、歯肉、歯根膜、抜去歯から歯周組織幹細胞を同定するための倫理委員会申請書を作成中である。この申請書類が完成し、申請書が通過すれば毎週行っている歯周外科手術時に患者検体が手に入り、平成24年度の後半の計画である“2. 同定した幹細胞マーカーを用いて、マウス長管骨・顎骨やヒト抜歯検体におけるMSCs、神経堤由来MSCsの局在を免疫組織化学的手法で明らかにする”について解析が進んでいくはずである。
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今後の研究の推進方策 |
歯周外科手術時にヒトの歯周組織(歯肉、歯根膜、歯槽骨、骨膜)を検体として採取し、申請者らがこれまで同定した幹細胞マーカーを用いて、ヒト検体におけるMSCs、神経堤由来MSCsを培養操作なしで直接分離する実験系を確立する。具体的にはヒト検体から細胞生存率の高い(機械的)細胞調整法やコラゲナーゼ濃度、処理時間等の条件を設定する。従来の培養樹立方法ではPDLSCsやDPSCsを実際の歯根膜や歯髄組織で確認する方法がなかったが、歯周組織幹細胞のマーカーが同定されれば生体内でどこに存在するのかを直接確認できる。生理的条件におけるMSCs、神経堤由来MSCsの局在を血管内皮や線維芽細胞などの他の間質細胞マーカーと同時に免疫組織学的手法にて確認する。マウスを用いては実験的歯周炎を発症させ、顎骨歯周組織修復機序を免疫組織学的手法で解析する。歯周組織の再生能力を有する幹細胞が、特異的マーカーを指標に生体から直接分離・同定でき、それらの細胞が歯周炎による組織破壊を修復させることが実験的に証明出来れば、新規歯周組織再生療法研究を飛躍的に推し進めるきっかけになると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究ではマウスおよびヒトから、これまでは培養操作を経ることでしか同定できなかった歯周組織に存在すると考えられる歯周組織幹細胞を、細胞表面抗原を指標に生体から直接分離することがどの研究計画を行うにも必要になってくる。そのため、マウスおよびヒト間葉系幹細胞マーカー抗体およびフローサイトメトリー運用費や細胞培養費、免疫染色用抗体、マウス飼育費に研究費の大半を使用させていただく予定である。 未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果として、また、ヒトの検体を用いた実験の実施が遅れていたためであり、翌年度のマウス飼育費やマウスおよびヒト間葉系幹細胞マーカー抗体等の購入に充てる予定である。
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