研究課題/領域番号 |
24592966
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
柴田 陽 昭和大学, 歯学部, 助教 (30327936)
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研究分担者 |
宮崎 隆 昭和大学, 歯学部, 教授 (40175617)
美島 健二 昭和大学, 歯学部, 教授 (50275343)
山田 篤 昭和大学, 歯学部, 講師 (50407558)
吉田 美智 昭和大学, 歯学部, 助教 (50555109)
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キーワード | チタン / インプラント / 酸化ストレス |
研究概要 |
インプラント埋入時の創傷治癒に関連する血管内皮細胞,歯肉上皮の基底細胞さらにマクロファージは,酸化ストレスの影響により再生能力が低下することが報告されている.酸素供給ができない金属チタン表面では接着細胞の酸化ストレスが上昇するため,インプラント埋入後の創傷治癒が遅延される.これは細胞内ミトコンドリアの呼吸抑制により細胞内で活性酸素が発生し,接着細胞の抗酸化物質が減少するためと考えられている.したがってチタンインプラントでは表面改質により接着細胞への酸素供給を行い,酸化ストレス抑制による創傷治癒を促進することが重要である.リン酸二水素ナトリウム溶液中で放電用陽極酸化処理したチタン表面がヒドロキシラジカルを発生し,表面疎水性炭化水素の吸着を防止することから優れた生体適合性を長期間持続することを報告した.電解液中でのチタン陽極酸化処理は,アモルファスのアナターゼ型チタン酸化膜を成長させる.このチタン酸化膜内にはTi4+とO2- の正孔電子対が残存しており,大気中の酸素や水分と反応することで,ヒドロキシラジカルと親水基が維持される.申請者らは,放電陽極酸化チタンプレートを脱イオン水中に浸漬すると,表面ヒドロキシラジカルの分解により,経時的な溶存酸素濃度が上昇することを見出した.放電陽極酸化処理チタンは加熱により結晶性を向上させることで,表面微細構造を変化させることなく,ヒドロキシラジカルの発生のみを抑制することができる.ヒドロキシラジカル発生を抑制したネガティブサンプルでは,溶存酸素濃度の上昇が見られない.したがって,酸素供給のできる放電陽極酸化処理チタン表面は,接着細胞の酸化ストレスを抑制する効果が期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り,セルラインで購入できる内皮細胞,マクロファージ,上皮基底細胞をチタン試料表面で培養し,前年度に用いた方法で,総グルタチオン量を定量した.また接着細胞の細胞内活性酸素を蛍光色素で染色できた.さらに,in vitro共存培養系で,内皮細胞・マクロファージのサイトカイン発生と骨芽細胞の石灰化マーカー遺伝子の発現をチタンサンプル上で測定した.
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今後の研究の推進方策 |
表面研磨チタン,放電陽極酸化チタン,大気加熱チタンおよび陽極酸化処理後に大気加熱したチタンをX線回折,X線光電子分光で表面分析する.ddYマウスの頭蓋骨から採取した骨芽細胞をチタン試料表面で培養し,回収した細胞内総グルタチオン(還元型+酸化型)を測定する.またmRNA発現(Ho1, NRF2)をリアルタイムPCR法により定量し,チタン試料表面の化学構造と細胞内酸化ストレスの関係を明らかにする.チタンサンプル上で培養骨芽細胞のmRNA発現量をリアルタイムPCRで定量すると同時に,in vitroでチタン試料表面に析出した石灰化組織を,ナノインデンターやレーザーラマン分光法を用いて分析する.カルチャープレート上でBMP2, lysyl oxidase を添加して骨基質タンパクの発現と架橋構造を促進した石灰化組織を培養し,同様に物理化学的特性を評価する.
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次年度の研究費の使用計画 |
陽極酸化処理したインプラント表面の周囲組織治癒を包括的に検討するため,動物実験が必要である.予備実験として,細胞実験で分子レベルの研究と石灰化組織の物理化学的特性の検討を十分に行うため,ミニインプラントを作製する必要がある. 試料観察に用いる走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーを消耗品として計上した.試料には金属材料であるチタンプレートを10ミリ角に加工して用いる.最終年度は動物実験に移行し,長期経過を追及することから飼育費が発生する.さらに組織切片を作成するため必要な試薬,器具などこれら実験がルーティンに稼動した場合の最低限必要な予算を算出した.また本実験から得られるデータは学術的にも価値の非常に高いものとなることが予測されるため,国際学会発表や国際学術誌などの投稿が必要であると考えられる.
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