研究課題/領域番号 |
24592973
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
福井 壽男 愛知学院大学, 歯学部, 教授 (50090147)
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研究分担者 |
鶴田 昌三 愛知学院大学, 歯学部, 准教授 (40183488)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 歯科用合金 / 硬化機構 / 溶体化処理 |
研究概要 |
市販歯科鋳造用金銀パラジウム合金を1123Kで3.6ksの溶体化処理を施した場合、機械的強度が向上する。その強化メカニズムは、溶体化処理により凝固組織中にあるβ相(Pd-Cu系)の母相への固溶による固溶硬化あるいはβ相の準安定fct相(L10型規則相)の析出による析出硬化機構が大きく関与していることを報告した。しかし、凝固組織にβ相を完全固溶させた合金でも、溶体化処理によってβ’相が析出するのか、さらに、再溶解させた場合におけるβ相およびβ’相の挙動は不明である. 本研究では、鋳造方法をβ相が析出する遠心鋳造法(CC材)およびβ相を完全固溶してβ相が析出しない液体急冷凝固法(LRS材)で試料を作製して、β’の析出にβ相の関与しているかどうかについて検討した。その結果、凝固組織に粗大なβ相が存在するCC材は,溶体化処理の冷却過程にて母相中にβ’相が析出し,硬さが向上した.一方、凝固組織にβ相が存在しないLRS材は,α1相およびα2相で構成されていた.溶体化処理を施すことにより,ミクロ組織はα相および若干のα2相から構成され,熱処理前と比較して硬さは若干低下した.TEM結果、CC-1123WQSTのBF像より,母相のα相中に長軸:30nm,短軸:数nm程度の微細なラス状析出物(矢印)が確認できる.この析出物は回折パターンの解析から,三つのバリアントを有するL10型のβ’相である.さらに,fcc母相からの基本反射にはストリークも見られており,これらは整合的に析出したβ’相によって母相が歪んだ事に起因していると考えられる.一方,LRS材の溶体化処理ではBF像およびSADPから,βおよびβ’相の析出がないα単相の構造を呈している.この構造の変化が本合金の高温溶体化処理による特異効果機構の原因と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1123K 程度まで固溶化温度を上げると、引張強さは1 GPa を超え、溶体化処理だけで時効処理を行うことなく同等以上の結果を得て、特異な硬化現象を示すことである。この場合、fcc-Ag 固溶体単相(α相)となることで主に固溶強化機構によって強度が向上すると予測し研究を開始した。この仮説が本研究で証明された。すなわち、CC-673WQSTA-1123WQSTの異なる部位における明視野像(BF)を代表的に示した.TEM像から母相がfccであることおよびα母相中に長軸が約30nmの微細なL10型のβ’相の析出が明確に確認できた.このように,同じ溶体化処理温度でもCC-1123WQSTに比べて,時効後再度溶体化処理ではより微細なβ’相が確認できた。また、さらに結晶粒界と思われる部位に長軸が約100nm程度の粗大なβ’相が確認できた.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果を踏まえて、β’相の析出メカニズムの解明から、本合金のβ’相の析出を制御することによるβ’相の析出量と機械的性質との関係を検討する。さらにいくら機械的性質に優れていても、化学的性質に劣ると金属アレルギー発症を惹起させることになる。したがって、本合金のβ’相のイオン化に及ぼすミクロ組織と構成金属の溶出挙動との相関について検討する。さらに、鋳造体となると表面性状, 特に表面粗さがイオン化に大きく影響することが考えられるので、鋳造体表面の粗さがイオン化挙動に及ぼす影響について明らかにする。この経過を基に、12%金銀パラジウム合金の代替合金の開発を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
得られた成果から、12%金銀パラジウム合金の代替合金の開発を行なう。構成成分の決定および試作された組成合金を種々の条件で熱処理を高真空ガス炉で行ない、TEMによる組織観察を行なう。さらに機械的性質および腐食の測定を行なう。 1.組成の決定と各種の試作合金を種々の条件で熱処理したミクロ組織をTEM観察する。 2.試作された合金の各性質を生体疑似環境内で疲労試験、磨耗試験、フレッティング疲労試験を行なう。
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