研究実績の概要 |
骨吸収抑制薬であるビスフォスフォネート(BP)が粘膜毒性を有することは知られているが、その作用は充分解明されていない。本研究では、注射用BPであるゾレドロネート(ZA)を用いて、BPの上皮細胞毒性がカルシウムによって増強されることを下記の方法で示してきた。 初年度は、培養細胞の生存にほぼ影響がないとされる1μM以下の低濃度ZAに対するカルシウム(Ca)の影響を、ヒト上皮細胞株(HaCaT)で調査した。その結果、単独では作用を有しない0.5μMのZAが、培地中のCa濃度の上昇とともに増殖抑制及びアポトーシス誘導を引き起こすことを明らかにした。このZAに対するCaの協調作用は、EGTAにより打ち消された。 次年度は、このCaの協調作用について、ヒト扁平上皮癌細胞(HSC-4, KOSC, SAS)およびヒト乳癌細胞(MCF-7)で検討した。その結果、HaCaT細胞同様に、CaがZAの増殖抑制効果やアポトーシス誘導作用を著しく増強することが明らかになった。さらにHSC-4でアポトーシスの内容を詳細に検討した結果、cleaved caspase-3, -9の上昇、細胞質内のチトクロームCの上昇、ミトコンドリア膜電位の変化などが生じていることが明らかになった。 最終年度は、ZAに対するCaの相乗作用が、カルシウム溶液のpHの上昇とともに増強されることに着目して研究を行った。これまでのところ、増殖抑制やアポトーシス誘導、またZA作用の指標となるタンパクのプレニル化阻害が、アルカリ環境で強く発揮されることが示され、Caの相乗作用にリン酸カルシウム塩の形成が関与している可能性が強く示唆されている。 以上より、BPが低濃度であっても、Caがその上皮細胞毒性を増強することがin vitroで示された。こうしたメカニズムが、BP投与患者の口腔粘膜の治癒遅延に関与するかがこの後の検討課題である。
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