血管新生蛋白であるangiogenin (ANG)は,血管内皮細胞の増殖に重要な役割を果たす.骨のリモデリングには骨芽細胞,骨細胞,破骨細胞間のクロストークのみならず,骨髄中に存在する多種の細胞から産生される因子との密接な相互作用(オステオネットワーク)が重要な役割を果たし,血管内皮細胞も関連している.本研究計画では,骨折治癒過程におけるANGの生物学的な役割について未だ解明されていない基礎的な問題を解決し,顎顔面領域の骨折治療をはじめ顎変形症手術や口腔癌切除後の顎骨再建手術などにおける術後の早期骨修復過程にANGの関与の可能性を見いだすことにより,骨再生医療へのANGの応用を展開するための研究基盤を確立することを目的とした.マウスANGには4種のアイソフォームが存在するが,ヒトANGと相同性が最も高く,血管新生能を有するANG-1をノックアウトしてANG KOマウスを作製した. ANG KOマウスは外見上ほぼ正常に産まれ,特異な表現型は認めなかった.7週齢ANG KOマウスの肋骨骨折モデルを作製し,経時的に肋骨を周囲組織と一塊にして摘出し,病理組織学的に検討した.骨折後3日目では骨折部位の骨膜肥厚と炎症性細胞の浸潤を認め,骨折後5日目では骨折断端部に紡錘形の線維芽細胞の増生や破骨細胞,骨芽細胞を認め,断端付近の骨膜には軟骨様細胞を認めた.骨折後7日目では骨折断端周囲に肥大軟骨細胞の形成を,骨折28日目には層板骨の形成が見られた.これらの過程はANG KOマウスとWTマウスで有意な差はみられなかった. in vitroにおいて,ANGは濃度依存的に破骨細胞形成を促進させ,骨吸収活性も促進することが明らかとなった.骨折治癒過程においてANGは破骨細胞形成支持能を促進することが示唆された.
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