重症の顎関節内障で生じる顎関節の線維性癒着にテネイシンC (TNC)がどのように関与しているかを、マウス顎関節を用いて検討してきた。野生型(WT)マウスとTNCノックアウト(TNCKO)マウスに過開口運動を加え、顎関節線維性癒着モデルを作製し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色標本にて過開口運動後の顎関節内の癒着について検討するとともに、TNCと細胞接着に関係するフィブロネクチン (FN)の発現を免疫組織化学染色とマウス関節円板のウエスタンブロッティング(WB)にて検討した。HE標本において、過開口運動後7日目にWTマウスにおいて関節円板の線維性癒着を認めたが、TNCKOマウスでは、癒着の開始時期が少し遅れ、過開口運動後12日目に線維性癒着を認めた。WTマウスにおいて過開口運動により、関節円板、関節窩でTNCの発現が強くなった。FNは、TNCKOマウス、WTマウス両方の顎関節において発現が認められ、TNCKOマウスではWTマウスよりFNの発現量は少なかった。2014年度は、マウス顎関節線維性癒着へのTNCの関与を、筋線維芽細胞に着目し検討した。WTマウスとTNCKOマウスに過開口運動を行い、マウス顎関節組織において、筋線維芽細胞の存在を示すα-smooth muscle actin(α-SMA)の発現を、免疫組織化学染色とWBを用いて検討した。結果は、免疫組織化学染色とWBのどちらにおいても、TNCKOマウスではα-SMAのタンパク発現量がWTマウスに比べて少なかった。筋線維芽細胞は線維化の原因となるコラーゲンを産生している。そのためTNCKOマウスでは筋線維芽細胞の発現が抑制されることが考えられ、また、FNの発現もTNCKOで発現が少なくなっていたことから、過開口運動後のTNCKOマウスではWTマウスに比較し、顎関節の線維性癒着が遅れることが示唆された。つまり、TNCは顎関節の線維性癒着の促進において重要な役割を果たしていることが示唆された。
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