顎関節症は、滑膜に炎症が起こりさらに重症化すると、関節円板の転移、変性、変形、穿孔と関節円板に続く円板後部結合組織や滑膜の変性、線維化、癒着が認められているが、その病態の詳細は、未だ解明されていない。 一方顎関節症の発生頻度の性差については、女性が男性の2倍から5倍高いとの様々な報告があるが、いずれの報告においても女性の患者が有意に多いとされている。その中で、性ホルモンとの関係が示唆されており、エストロゲンと顎関節症の関係について多くの研究がされている。しかし、性ホルモンの一つであるDHEA(dehydroepiandorosterone)やテストステロンの顎関節における効果を検討したものは数少ない。 今回我々は、顎関節可動域を減らす可能性がある滑膜組織の炎症後の肥厚癒着に着目し、培養したヒトの顎関節滑膜線維芽細胞にDHEAを10μM、IL-βを1μM添加し、small leucine-rich proteoglycans(SLRPs)であるLumican、Fibromodulinについて、リアルタイムPCR、蛍光免疫染色にて、発現量を検討した。また、ヒトの顎関節組織をLumican、Fibromodulinを免疫組織染色した。 結果は、ヒトの顎関節滑膜細胞において、DHEAをそれぞれ添加すると、mRNAレベル、蛍光免疫染色にて、Fibromodulinの発現量を上昇させたが、Lumicanの発現量の上昇は認めなかった。一方でIL-1βは、Lumican、Fibromodulinの発現量を上昇させた。DHEAは、Fibromodulinの発現量を増加させる可能性が示唆された。このことにより、LumicanとFibromodulinの合成経路に違いがある可能性が示唆され、さらにはSLRPsの顎関節部での働き、炎症が顎関節の滑膜細胞に与える影響を解明する足がかりとなるであろう。
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