われわれは前癌病変、前癌状態である口腔粘膜角化病変発症の原因について、加齢に伴う抗酸化作用の低下と、酸化損傷分子の蓄積による酸化ストレスの影響に注目し検討した。 口腔扁平苔癬(OLP)、白板症(LE)と診断された30~80歳代の、OLP患者21例、LE患者10例を対象とした。まず、血清中の抗酸化物質としてビタミンA・C・E、葉酸、亜鉛、SOD(Superoxide dismutase)活性を、酸化ストレスマーカーとして血清中尿酸と尿中8-OHdG( 8-hydroxy-2’-deoxyguanosine)を測定した。両者の年齢との相関関係と、OLP群、LE群、および非角化病変(N)群の病変との比較検討を行った。次に、角化病変組織からタンパクを抽出し、ウェスタンブロット(WB)法で酸化ストレスマーカーであるカルボニル化タンパクを分析した。さらに、角化病変と非角化病変の口腔粘膜組織を、脂質酸化ストレスマーカーである抗hexanoyl-Lysin(HEL)抗体で免疫組織学的染色を行い陽性細胞の発現を観察した。 その結果、血液、尿それぞれの抗酸化物質の測定値と年齢との間に相関関係は認めなかったが、各群の比較では、OLP群とLE群で尿酸、SOD活性(Superoxide dismutase)で有意差を認めた。さらにビタミンCでは、3群において有意差を認めた。WB法では、100kD付近に見られたタンパクにカルボニル化が確認された。抗HEL抗体による免疫組織学的染色では、特にLEに基底細胞層に抗HEL抗体の発現を認めた。本研究では、口腔粘膜角化病変の発症への全身的な酸化ストレスの影響を強く肯定することはできなかったが、タンパクのカルボニル化や、脂質への活性酸素の影響が確認された。これらの局所的酸化損傷を表す結果から、口腔粘膜角化病変への分子生物学的影響を強く肯定できる可能性が示唆された。
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