細菌感染に伴う骨の破壊吸収は,主としてグラム陰性菌の外膜成分であるリポ多糖( Lipopolysaccharide; LPS )が重要な病原因子の一つとして考えられている.カルデクリン( Caldecrin )は友村らによって精製・クローニングされた急性膵炎発症時に頻発する低カルシウム血症の惹起因子であるが,破骨細胞の分化を抑制する因子として,また成熟破骨細胞機能を抑制する因子として報告された.これまでに骨吸収促進因子である炎症性サイトカインによるリウマチ患者の滑膜線維芽細胞において発現増加するRANKL mRNAをカルデクリンが抑制することを見出し報告していることから、RANKL発現が亢進している炎症組織内での破骨細胞分化をカルデクリンが抑制することが示唆されている.カルデクリンの炎症性に作用する破骨細胞への抑制機構のメカニズムをより詳細に探り,解析していくことで,インプラント周囲炎のような炎症性骨吸収治療への創薬をめざす基盤研究として進めている. マウス骨髄由来マクロファージにRANKL添加により破骨細胞に分化する系を用いてLPS単独あるいはRANKL+LPSを添加すると破骨細胞の形成が阻害された.一方,低濃度のRANKL前処理によりLPS添加で破骨細胞が効率よく形成された. LPSの破骨細胞分化誘導活性化にはRANKLによる前処理(プライミング)が必要であった.カルデクリンはRANKLによるLPS応答能を増強させるプライミングステップを抑制した. LPS環境下おいてカルデクリンはRANKLによるプライミング効果を抑制することより,炎症作用に対する予防薬としての期待ができる.これまでに破骨細胞分化過程において,カルデクリンはRANKL刺激によるカルシウム・カルシニューリン系を介する転写因子NFATc1を抑制することで破骨細胞の分化誘導を抑制することが明らかになっている.
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