研究課題/領域番号 |
24593014
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研究機関 | 相模女子大学 |
研究代表者 |
吉野 陽子 相模女子大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (70298248)
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研究分担者 |
中川 洋一 鶴見大学, 歯学部, 講師 (90148057)
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キーワード | 慢性ストレス / 唾液 / カリクレイン / 上皮成長因子(EGF) |
研究概要 |
【目的】αアドレナリン受容体アゴニストのフェニレフリン(PHE)の長期投与による交感神経受容体刺激は、唾液タンパク変化の機序解明の実験モデルとして有用と考え研究を進めてきた。上皮成長因子(EGF)は顎下腺から分泌され、口腔や消化管粘膜の保護、創傷治癒や疾患への関わりが示唆されている。慢性ストレス下では唾液分泌に変化をきたすことから、EGFへの影響も懸念される。このモデルマウスは、唾液中のカリクレイン活性とEGF濃度が有意に低下していた。そこで、本研究では唾液EGF低下のメカニズムを明らかにすることを目的とした。 【方法】13週齢のICR雄マウスを用いて、コントロール群(CTL群)には生食を、PHE群投与群(PHE群)にはPHE(5mg/kg)を1日2回、5日間筋注し顎下腺を摘出した。顎下腺は細胞膜と細胞質に分離し、細胞質中のEGFタンパク発現量をウェスタンブロッティング法により比較した。また、RT-PCR法によりEGFmRNA量を測定した。顎下腺におけるPro-EGFの発現と分泌顆粒の局在は、各々免疫染色とHE染色により比較した。 【結果】顎下腺細胞質中のEGFタンパク発現量は、PHE群がCTL群に比べて有意に低下していたが(p<0.01)、EGFmRNA量には差がみられなかった。また、Pro-EGF陽性分泌細胞数は、PHE群がCTL群に比べて明らかに減少し、Pro-EGFの存在状態に差異がみられた。これらのことからPHE群では、Pro-EGF産生の抑制は起こっておらず、Pro-EGFのカリクレインによるプロセシング機構が抑制されてEGFが減少したために、唾液中のEGF分泌量が低下した可能性が考えられる。唾液中のEGFは口腔や消化管粘膜の保護に重用な役割を持っていることから、唾液EGF量の低下は身体機能に影響をもたらす可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慢性的なストレスにおいて唾液中のEGF分泌量が低下する可能性が示唆され、この低下には唾液タンパク成分であるカリクレイン抑制による不完全なプロセシングによる可能性が示唆された。タンパク分泌異常の機序解明には、唾液EGFの身体に及ぼす影響と疾患との関わりを明らかにしていくことが重要であることが分かった。したがって、今年度得られた結果は、今後の研究の方向性を決める上で有意義なものであると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
唾液EGFは口腔や消化管粘膜の保護や創傷治癒などの多くの役割を持っている。クローン病や潰瘍性大腸炎、リウマチ疾患患者では、唾液中のEGF濃度の低下が認められている。慢性的なストレスにおいて唾液中のEGF分泌量が低下する可能性が示唆されたことから、唾液EGF分泌抑制が身体機能にどのような影響をもたらすかどうかについて明らかにしていきたい。予備検討として、メタゲノム解析によりPHEマウスの腸内細菌叢をCTLマウスと比較した結果、遺伝子レベルに差異がみられた。そこで、今後は慢性ストレスによる唾液EGF分泌抑制が腸内細菌叢にどのような影響をもたらすのかについて明らかにしたい。また、最終的にはドライマウス診療につなげていきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度では、基礎研究としてマウス顎下腺の免疫染色や腸内細菌叢のメタゲノム解析を外部委託により少ない検体数で予備検討した。次年度は基礎研究を臨床研究につなげることを目的としているので、検体数を増やして外部委託をする予定である。 平成25年度は、外部委託による予備検討を少ない検体数で比較したために残額が生じたが、次年度は今年度の残額を加えて検体数を増やし、信頼性のある結果を得たいと考えている。 慢性ストレスによる唾液EGF分泌抑制が腸内細菌叢に及ぼす影響と疾患との関わりについてを明らかにしたいと考えている。予備検討した腸内細菌叢の結果を基に、特に差異のみられたプライマーを合成してRT-PCR法によりmRNA量を測定し、比較検討する。また、慢性ストレスマウスにEGFを添加することにより回復がみられるかどうかについて検討する。最終的には、これらの結果をドライマウス診療につなげていけるようにしていきたいと考えている。
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