超高齢社会が進行しつつあるわが国では、今後も悪性腫瘍の罹患率が上昇し、患者の高齢化に伴い、化学療法や放射線療法の適応となる症例も増加することが予想される。これらの治療に伴って発症する重篤な口腔粘膜障害や唾液腺障害は、患者のQOL を低下させるのみならず、治療の達成度をも左右する重要な因子となる。代表的な放射線治療に用いられるX線では、電離した放射線がフリーラジカル(OH-)を産生し、これがDNA にダメージを与え、また、酸素が多く存在する環境ではH2O との反応でフリーラジカルがより多く発生する。すなわち活性酸素やフリーラジカルが、腫瘍組織を攻撃するのが放射線治療の代表的作用機序で、これは腫瘍組織のみならず、正常組織にもダメージを与えることとなる。一方、メラトニンは、主に夜間、松果体より分泌される概日リズム調節ホルモンで、様 々な生理作用が報告されているとともに、フリーラジカルスカベンジャーとして強い抗酸化作用を持つことが知られている。以上のことから、メラトニンを応用し、その極めて強い抗酸化作用を利用することによりフリーラジカルに起因する口腔粘膜障害や唾液腺障害の発症予防、進行抑制あるいは治療を図ることができる可能性に着目し、放射線照射によるマウス口腔粘膜における障害について検討した。その結果、15Gy単回照射によりダメージを受けた頬粘膜、舌の組織において、メラトニンを腹腔内投与および傾向投与することによりそのダメージを回避できることを見出した。このメカニズムについて検討するため、組織学的検討を行ったところ、TUNEL染色および活性化カスパーゼ3の検討によりアポトーシスの回避が、メラトニン投与群において認められた。このことからメラトニンはアポトーシスの回避をメカニズムの一部として酸化ストレスを抑制し、放射線性口腔粘膜障害を予防および治癒できる可能性が示唆された。
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