ポリ(ADP-リボース)代謝は、ポリADP-リボースの合成系と分解系から成る。合成系を担うParp1は、Oct3/4とSox2の制御を介してゲノムのリプログラミングに関わる。また、Parp1は、Sox2と複合体を形成して多能性を制御している。これまで、Parp1ホモ欠損ES細胞株の2つのクローンに共通して、Sox2の発現が低下していることを見出した。Parp1遺伝子型のみならず、分解系を担うParg遺伝子型は、ポリADP-リボシル化のターゲットとなるリプログラム因子に対して影響する可能性がある。前年度までに得られた結果を基にして、Parg遺伝子型について解析を進めた。ある種のmicroRNAを細胞に導入することで、リプログラミングを誘導できるため、リプログラミング因子としてmicroRNAの関与が示唆されている。また、microRNA 結合タンパク質であるAgoはポリADP-リボシル化により翻訳後修飾される。これらの事実は、リプログラミング過程においてmicroRNAを介した遺伝子発現の制御に、ポリ(ADP-リボース)代謝が関与する根拠となる。グループが独自に作製したPargホモ欠損型マウスのES細胞株(D122)と野生型マウスのES細胞株(J1)よりRNAを調製し、アレイを用いて、microRNAの網羅的発現解析を行った。LIF存在下、野生型の発現と比較してPargホモ欠損型で2倍以上に発現増加していたのは、多能性誘導に関与するmiR-294、miR-295などを含む15個であった。一方、同様に0.5倍以下に発現低下していたのは、DNAメチル化調節に関わるmiR-370などを含む14個であった。ポリ(ADP-リボース)代謝は、microRNA発現制御を介して、多能性と広範なメチル化パターンの維持に関与することが示唆された。得られた結果を総括し、学術誌に報告する予定である。
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