リプログラミング因子導入による口腔癌細胞の脱分化を目的に、OCT3/4、SOX2、KLF4、L-MYC、LIN28、p53-shRNA発現用エピソーマルベクターを電気穿孔法により、口腔癌細胞株(HSC2)へ遺伝子導入を行った。その結果得られたトランスフェクタント(HSC2/hOCT3/4-shp53-F+hSK+hUL)は、親株(HSC2)と比較して増殖能、浸潤能、Sphere形成能が高く、抗癌剤、放射線に対して著明な抵抗性を示すとともに、免疫不全マウスにおいて高い造腫瘍性を示した。 すなわちHSC2/hOCT3/4-shp53-F+hSK+hULは口腔癌幹細胞に類似している可能性が示唆された。そこで、次世代シークエンサーを用いたSAGE法により親株とトランスフェクタント間で発現変動の著しい遺伝子を検索し、IPAを用いて99%有意差のある遺伝子をパスウエイ解析した。その結果、 Cell cycleの経路が1位で認められ、Cyclin D1が中心になっており、これを活性化制御している転写因子はERGであり、FOXO1やHRASの強い関与が示唆された。これが増殖能の高さにつながっていると考えられた。第2位の経路では、TGFを介してインテグリンやコラーゲンの発現を変化させており、この際CXCLの発現増強を認めた。これが走化性に関与し、浸潤能の高さにつながっていると考えられた。このトランスフェクタントは、親株と比較して5-FU、CDDP、Docetaxel、Paclitaxel、Cetuximab、放射線、Bortezomib、トリフルオロチミジン、Zoledronic acidに対して抵抗性を示し、最近注目されている癌幹細胞に有効とされるスルファサラジンに対しても強く抵抗性を示した。このトランスフェクタントは、癌幹細胞を標的とした治療法の開発に有用である可能性が示唆された。
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