ヒト舌癌組織から樹立された扁平上皮癌細胞株と、この細胞をマウスへ繰り返し同所移植することによって転移能を獲得させた細胞株、さらに頸部リンパ節転移巣から樹立した細胞株を使用し、口腔扁平上皮癌細胞の転移能の獲得と Tumor necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand (TRAIL) によるアポトーシスへの抵抗性の獲得に相関があることを明らかにした。 次に、転移能を持たない細胞と転移能を有する細胞を比較することで TRAIL 抵抗性の解除方法を探る手法をとった。種々の癌細胞で蛋白量や活性が上昇し、浸潤や転移など癌の悪性形質に深く関わることが知られる Src に注目した。口腔扁平上皮癌細胞においても、転移能を獲得した細胞株にSrcキナーゼの活性化亢進があることを明らかにした。口腔癌においても、Src の発現および活性化がその悪性形質を支持している可能性が考えられるため、siRNA を用いて Src の発現を抑制したところ、転移能を有する細胞株の TRAIL 抵抗性を解除することに成功した。 さらに、転移能を持たない細胞と手に能を有する細胞を TRAIL で処理した際に、発現亢進(あるいは発現低下)する分子を探索するために micro array 解析を行った。A20 (TNFAIP3) は、TRAIL に抵抗性の(転移能を有する)細胞では定常状態で高発現しており、TRAIL に感受性の(転移能を持たない)細胞では TRAIL 処理により発現亢進することが明らかになった。 TRAIL と Src あるいは A20 を標的としたアポトーシス誘導療法は、軽微な副作用で高い抗腫瘍効果が得られることが期待できる。口腔癌の原発巣のみならず転移をも克服可能な理想的な治療法として、臨床応用に向けた研究の進行が期待される。
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