本年度は昨年度に引き続き、酸感受性チャネル(Acid Sensitive ion channels ASICs)の上流にあるProtease activated Receptor-2 (PAR-2)が術後痛の発生機序にどのように影響するかを動物行動実験および電気生理学的実験により検討した。ラット術後痛モデルにおいて、足底切開の前にPAR-2のantagonist であるENMD1067を前投与し、自発痛、機械刺激反応、熱刺激反応を観察した。それぞれ、術後早期の痛み(一日~二日)を抑制したが、術後中期および晩期の痛みは抑制しなかった。このことは、PAR-2が術後早期の痛みの成立に関与し、その後は他の因子によって術後痛が生じている可能性を示唆している。また、PARー2の活性化は、TRPチャネルを介して、創部の浮腫により痛みを増強する可能性が考えられたため、PAR-2 agonistであるSLIGRLを高浸透圧下、低浸透圧下で投与したところ、痛みはさらに増強し、自発痛は約4倍の強さとなった。また、in vitro skin nerve preparationによる電気生理学的実験においても類似した結果を示した。 以上より、術後痛の発生機序に、肥満細胞などから放出されるトリプターゼによるPAR-2の活性化が関与していることが示唆され、その反応はさらに創部の浮腫などによって浸透圧が変化することでさらに増強することが示された。
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