大脳辺縁系の一部である側坐核は,扁桃体,海馬,腹側被蓋野の神経細胞から入力を受け,ドパミン神経系の働きにより情動の制御に重要な役割を果たしており情動に関連した覚醒との関係性が示唆されている.一方,黒質線条体系ドパミン神経細胞の変性・脱落はパーキンソン病を惹起することから,この系は身体の運動制御にも関係していると考えられる. 本研究ではマウスにペントバルビタールを全身投与し,麻酔作用のうち特に鎮静,筋弛緩,正向反射消失について評価後,鎮静および正向反射消失状態下で侵害刺激を加えたときに側坐核や線条体でのドパミン量を変化させるか,また,薬物により脳内ドパミン量を増減させたときにこれらの麻酔作用に影響を与えるか,行動薬理学的手法およびマイクロダイアリシス法によりin vivoで検討した. ペントバルビタールは用量依存性に正向反射を抑制し,握力試験では握力が低下しており,他の麻酔要素である筋弛緩を認めた.マイクロダイアリシスによるドパミン量の測定では,ペントバルビタールは用量依存性に側坐核と線条体の両部位においてドパミン量を減少させたが侵害刺激を加えたときの体動は抑制出来なかった.ドパミン再取り込み阻害薬は側坐核のドパミン量を増加させ,ペントバルビタール投与後の正向反射を惹起させ,またドパミン枯渇薬は側坐核のドパミンを有意に減少させ,ペントバルビタールの正向反射消失作用を増強した. 以上の結果から,ペントバルビタールは用量依存性に線条体と側坐核のドパミン量を減少させ,このドパミン神経の抑制は正向反射消失作用を修飾することが明らかとなった.また,ペントバルビタール麻酔下での侵害刺激は軽度正向反射障害(鎮静)下では,中脳辺縁系のドパミン神経を賦活し情動系を介して覚醒へと向かわせるが,正向反射消失下では侵害刺激を加えても情動系が働かないため,覚醒へ向かうことはないことが解明された.
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