研究課題/領域番号 |
24593067
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
島津 徳人 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (10297947)
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研究分担者 |
青葉 孝昭 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (30028807)
田谷 雄二 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (30197587)
柳下 寿郎 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (50256989)
佐藤 かおり 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (90287772)
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キーワード | 歯学 / 病理学 / 舌癌 / リンパ管新生 / リンパ管浸潤 / 転移 / 病理診断 / 3次元形態計測 |
研究概要 |
口腔癌の多くは口腔粘膜上皮に由来する扁平上皮癌であり、早期に所属リンパ節に転移しやすく予後も悪い。本研究では、舌癌のリンパ節転移機序の解明と臨床病理診断における予後判定基準を確立目的で、癌微小環境(癌胞巣、血管・リンパ管走行など)を構成する細胞・組織要素をコンピュータ処理により分画したうえで組織空間を再構築する。この3次元腫瘍微小環境においては、原発病巣における癌細胞の免疫表現型や浸潤様式、リンパ管内侵襲様式を網羅的に解析する。高精細な組織立体構築に向けて、回転式ミクロトームで連続薄切標本(4μm厚、100枚)を作製し、複数の特異抗体(サイトケラチンCK、Ki-67、CD31、D2-40、S100A4、αSMA)と発色剤(DAB 茶色; Vector SG 青色; AEC 赤色)の組合せによる多重免疫標識を実施した。異なる免疫表現型を示す腫瘍実質、血管内皮、リンパ管内皮、間葉系細胞を分画するために、単一抗体による標識画像ごとにバーチャルスライド(VS)を用いて高解像度のデジタル情報として多段階で記録した。VS画像の位置合わせとRGB色調による構成要素の分画にはImageJおよびRATOC TRI-SRF2を使用した。各症例の癌病変立体構造を分析した結果、癌の浸潤形態は症例間で多様であり、癌胞巣が間質に向けて圧迫性に増殖する症例では、境界部で癌細胞のリンパ管侵襲が検出されることが多く、癌胞巣間隙が広がると、Intratumor領域における癌細胞のリンパ管侵襲が目立っていた。舌扁平上皮癌のリンパ節転移機序に関しては、S100A4陽性細胞にエスコートされた癌細胞集団は上皮形質を維持した状態で移住しリンパ管腔内に侵襲できることがみとめられた。高精細の組織画像を用いた立体構築により、腫瘍微小環境を構成する細胞要素の大部分を分画した上で、癌浸潤形態と脈管走行の同時観察が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
連続薄切標本での多重免疫標識情報に基づいた3次元組織立体解析を実施するうえでは、組織要素の分画に際して微小な癌胞巣や狭い癌間質空間に展開する微細な血管・リンパ管網を高い精度で再現することが課題であった。バーチャルスライド(浜松ホトニクスNanoZoomer)の空間分解能は0.46μm/ピクセルであり、組織内に浸潤・分散している癌細胞の核質・細胞質成分の分画・計測を細胞1個単位の精度で行うことができた。研究期間内に確立したヘマトキシリン核染色と細胞形質の免疫染色とのデジタル画像を統合した画像処理プロトコルにおいては、立体構築された癌組織領域(3mm直径、4μm×108枚、3mm3の組織空間)に含まれる全構成細胞に相当する105個/mm3の細胞核を分画したうえで、①構成細胞単位での増殖活性の判別、②腫瘍間質に分散する単核細胞と脈管壁に組み込まれた脈管内皮細胞の分別、③癌実質や間質の境界部や癌胞巣内部の狭い間質空間に伸展する微小な脈管網の可視化と定量化が可能となった。3次元解析の利点として、多方向・任意断面での直視観察が可能なことに加えて、3次元座標での仮想ミクロ解剖の演算処理により、近接している構成要素間での連結/分離の判定が可能であった。この演算処理の原理としては、標的組織要素を最小容積単位(1ボクセルの大きさは0.46μmに相当する)で縮小・膨張操作することにより、隣接する組織要素との連続・不連続を検証できる。癌細胞巣とリンパ管壁の空間位置情報に基づいた解析では、癌細胞とリンパ管内皮とが直接接触している部分を自動検出し、この癌細胞とリンパ管内皮との接触点を精査することにより、癌細胞がリンパ管腔内に侵襲する部位を同定でき、・連結した癌細胞集団がリンパ管壁を穿孔して管腔内に入り込む様子や独立した微小な癌胞巣が単独でリンパ管腔に存在する様子を捉える事ができた。
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今後の研究の推進方策 |
予後経過を含む臨床情報が揃っている舌癌30症例を対象として、癌微小環境における実質・間質構造の特質(癌胞巣の連結性と増殖活性、intratumor領域とperitumor領域での脈管密度と空間分布、癌細胞と脈管壁との接触頻度と管腔内閉塞の発生頻度)と癌症例の予後情報(所属リンパ節への一次転移・後発転移、遠隔臓器への転移の有無)との照合を継続する。これまでの成果として、高精細の組織画像を用いた立体構築により、腫瘍微小環境を構成する細胞要素を分画した上で、癌浸潤形態と脈管走行を同時に観察することが可能になっている。ただし、複数要素を統合させた3Dデータは40ギガバイトにも及び、3次元解析に用いている高性能PC(Win7 ×64bit, 96GB RAM)においても、多方向からの3次元観察に際して画像表示の応答に遅れが生じることから、癌細胞とリンパ管内皮との接触点を精査するのに数時間を要している。そこで、高画質を維持したまま大容量3Dデータを高圧縮し、インタラクティブに動的観察できる画像処理機能を応用した観察法を導入する。これに併せて、汎用性の高いファイルフォーマット(QuickTime VR)に変換することで、組織要素の分画・同調表示を維持したまま動画ファイルを数十メガバイト程度に圧縮することができる。QuickTime VR形式に変換する利点として、市販されている一般的なPC(WindowsやMachintosh)でもインタラクティブに動画観察できることと、Web3Dデータとして3DデータをWeb上に公開・配信できることが挙げられる。研究代表者らは、web3Dデータを一般公開する目的で昨年度に3Dポータルサイトを立ち上げており、web3Dを自由閲覧できるシステム構築と定期的な研究成果の公開を目指している。
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