【目的】破骨細胞分化前の単球系破骨前駆細胞はどのような機構で血中から位置決めして骨へ遊走してくるのか明らかでない.血中から骨へ遊走した破骨前駆細胞は骨芽細胞とともに破骨細胞ニッチと呼ばれる安定した微小環境を維持し,破骨細胞へ分化していく.骨組織に豊富に存在しているTGF-βが,破骨前駆細胞の破骨細胞への分化促進因子であることが知られているが,本研究は破骨前駆細胞が微小環境内で遊走,定着する過程でのTGF-βの影響を検討した.【方法】マクロファージ系破骨前駆細胞RAW264.7細胞にTGF-βを培養液に添加し,細胞増殖への影響を検討した.また,細胞形態の変化を観察した.TGF-βを投与した細胞に対して,scratch assayおよびinvasion assayを行い,細胞の遊走能の検討を行った.細胞にTGF-βおよびその阻害剤であるSB431542の投与を行い,TGF-β,Rho,Rac,cdc42のタンパク発現をウエスタンブロット法にて検討した.【結果】TGF-β刺激による細胞増殖能への影響は認めなかった.TGF-β刺激3日目,細胞形態は円型から紡錘形へと変化がみられた.scratch assayおよびinvasion assayでは,TGF-β刺激により細胞の遊走能は減少した.また,ウエスタンブロット法による検討において,TGF-β刺激によりRho,cdc42発現に変化はみられなかったが,Rac発現は減少した.RANKL併用投与によりさらにRac発現が減少し,Rho,cdc42発現も減少した.【考察】TGF-β刺激により,破骨前駆細胞形態は運動性から接着性の形態に変化し,Rac発現が減弱したことから,遊走性の高い破骨前駆細胞はTGF-βの上昇した微小環境内で遊走能を消失し,骨リモデリング開始部に定着する.さらに骨芽細胞から提供されるRANKLにより,破骨前駆細胞はRho,cdc42発現の減少に伴い,さらに静止安定した破骨前駆細胞となり骨芽細胞とともに破骨細胞ニッチを形成すると考えられた.
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