研究実績の概要 |
本研究の目的は矯正歯科治療に伴う痛みに対する中枢神経系の役割およびCO2レーザーの軽減効果のメカニズムを解明することである。本申請者らはすでに歯の移動時に認める痛みマーカーの発現の分析を末梢及び中枢で行い、CO2レーザー照射による影響を基礎的(Journal of Dental Research, 89: 537-42, 2010)または臨床的(Angle Orthod. 78: 299-303, 2008)に報告した。今回、我々は即発性の痛みのみならず、矯正歯科治療に特徴的な遅発性の痛みにおける効果に着目した。そこで、まず新たに遅発性の痛みの指標となりえるアストロサイトおよびグリア細胞の歯の移動時の変化の分析を行った。その結果、実験的歯の移動後、ラット中枢神経(三叉神経主知覚核、尾側亜核、吻側亜核)領域において、アストロサイトおよびグリア細胞の増加を認めた。アストロサイトおよびグリア細胞は尾側亜核において3日後より増加、5日後に最も著しい増加を認め、14日後にコントロールの状態に戻った。さらに、痛みマーカーであるc-fos蛋白とアストロサイトおよびグリア細胞の共存性の検証を行った。c-fos蛋白が歯の移動後3~5日後において増加を認めた。マイクログリアおよびアストロサイトにおいてc-fos蛋白と共存を認めた細胞は、5日後に尾側亜核および吻側亜核に最も著しい増加を認めた。以上の結果より歯の移動時に特徴的に起きる遅発性の痛みにアストロサイトおよびグリア細胞が関与し、痛みの伝達および調節に深く関わることが示唆された。次に、ラット臼歯の実験的歯の移動後、CO2レーザー照射を行ったが、1~3日後に著しく増加したc-fos蛋白の抑制を認めたが、アストロサイトおよびグリア細胞の有意な減少は認められなかった。以上より、CO2レーザー照射による鎮痛効果は主に即効性の痛みに関与することが示唆された。
|