本研究では,吸引・嚥下時に生じる口腔内の気圧変化を客観的かつ簡易に測定することを目的として市販工業用気圧センサーを用いた口腔内圧測定装置を開発し,詳細な検討を行うことで,新たな機能評価方法としての実用化を目指した. 試作した口腔内圧測定装置は簡易なシステムではあるが,吸啜・嚥下時の口腔内の気圧変化を客観的に計測することができた.本装置の口腔内圧波形をVF画像および筋電図とシンクロさせた計測により,嚥下時の陰圧発生が確認できた。吸啜・嚥下運動は口腔等の種々の機能が協調して行う運動であり,口腔内圧の測定はそのトータルな機能としての吸啜・嚥下能力を臨床的に評価する方法としてその可能性が示唆された. また,試作した口腔内圧測定装置を用いて最大吸引力,嚥下時口腔内圧,口蓋への舌接触と嚥下時口腔内圧との関連について検討し,以下の結果を得た.1.試作した口腔内圧測定装置は吸引・嚥下時の圧力変化の測定において良好な再現性を示し,測定も容易であった.2.若年者70名および高齢者24名の計測により,最大吸引力は加齢によって低下する可能性が示唆され,最大舌圧や口唇閉鎖力などの口腔機能と相関がみられた.3.口蓋接触センサーとのシンクロ計測により嚥下時の舌の口蓋への接触と陰圧との関連が示唆された.4.嚥下時口腔内圧は上顎第一大臼歯より後方で計測され,様々な波形を示した.また,口唇閉鎖力との相関がみられた. 以上の結果より,試作した口腔内圧測定装置は吸引・嚥下時の圧力変化の測定において良好な再現性を示し,測定も容易であることから臨床的な口腔内圧評価方法として有用であると考えられる.また,吸引・嚥下時の圧力変化と様々な口腔機能および呼吸機能との関連も示され,口腔内圧力変化の臨床的な口腔機能評価法への応用に向けて新たな知見が得られた.
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