歯科矯正治療の基盤は歯に矯正力を加えて動かすということであり、この基本は変わらない。歯科矯正治療の課題として審美性の向上や疼痛の軽減、清掃の簡易化などが挙げられるが、その治療期間の長さから治療期間の短縮も大きな課題の1 つである。近年、様々な材料の開発やメカニクスの研究により治療の効率化がなされ、治療期間の短縮が図られるようになってきたが、その効果はまだ十分とは言えない。 歯科矯正治療における歯の移動メカニズムは、圧迫側に誘導される破骨細胞の働きによる骨吸収と牽引側に誘導される骨芽細胞に働きによる骨添加によって歯の位置が変化することによる。つまり歯の移動には骨代謝が密接に関係している。一方、整形外科分野においては低出力超音波照射が骨折の治癒に促進的に働くとされ、臨床応用がなされている。これは骨代謝が促進されるとの報告によるものである。これを歯科矯正領域に応用した場合、骨代謝の促進によって歯科矯正治療における歯の移動が促進されるのではないかと考えられる。臨床応用へ至るためには、まず基礎的・学術的なエビデンスが必要であり、そのためにマウスの歯の移動モデルを利用することとした。 マウスの上顎切歯部歯槽骨と左側第一臼歯間にのクローズドコイルスプリングを装着し、第一臼歯を近心移動した。超音波付与群には超音波骨折治療器(某社)を用いて左側頬部より超音波振動(3.0MHz)を毎日20分付与する。12日後にマイクロCTを用いて第一臼歯と第二臼歯間距離を計測し歯の移動量とした。対照群では124.0±80.2μm,LIPUS照射群では223.5±108.0μmであった。LIPUS照射群で移動量が増加する傾向が認められたものの,両群間に統計的な有意差は認められなかった。
|