顎顔面発生期におけるWntシグナルの働きをしらべるため、Dickkopf-1(DKK1; beta-catenin inhibitor)を用いてWntシグナルを阻害した場合の顎顔面の発生を調べた。これまでに上顎突起が前頭鼻突起と癒合する直前に投与すると(Stage 20HH)、Lhx8 、Msx1、Msx2遺伝子発現が減少し、上顎に著明な骨欠損を生じることを明らかにした。また、顔面突起が癒合すると、Wntシグナルの作用が減弱することも示唆した。 今年度は、DKK-1投与後の遺伝子発現の様相について調べた。DKK-1 Beads埋入6時間後、24時間後、48時間後にembryoを摘出し、wholemount in situ hybridizationを行った。また、embryoからbeads周辺の上顎突起を摘出し、RNAを抽出後real time RT-PCRで発現遺伝子を定量化して評価した。その結果、DKK-1投与後24時間後まで、Lhx8 、Msx-1、Msx-2のいずれの遺伝子発現も減少したが、48時間後では対照群と同じレベルに回復していた。前年度の研究で、beads周辺の上顎突起では投与後6時間後にapoptosisが認められていることから、DKK-1による一過性の遺伝子発現低下と考えられた。 DKK-1は、投与後24時間まで、Lhx8 、Msx-1、Msx-2遺伝子発現を低下させ、apoptosisを引き起こし、顔面の形態発生を障害した。すなわち、Wntシグナルは、顎顔面の発生期、とくに顔面突起が癒合する前に作用し、顔面の形態発生を司ることが示唆された。
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