研究課題/領域番号 |
24593117
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
岩崎 剣吾 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 寄付講座助教 (40401351)
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研究分担者 |
小牧 基浩 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 寄付講座准教授 (30401368)
森田 育男 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (60100129)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 再生 / 歯周組織 / 幹細胞 |
研究概要 |
歯周病は細菌感染に由来する歯周組織の慢性炎症を特徴とする疾患である。進行した歯周炎患者では慢性炎症によって歯の支持組織の破壊が起こり、最終的には歯の喪失に至る。現在歯周病は日本人の歯を失う最大の原因となっている。よって失われた歯周組織を再生することは、歯周炎に罹患した歯を救い、さらには口腔機能の維持を介して国民の生活の質の維持の為に重要と考えられる。これまで様々な歯周組織再生療法が提唱されてきたが未だ十分な組織再生は達成されておらず、新規治療法が求められている。我々は幹細胞移植による歯周組織再生を検討してきたが、その再生組織中に移植した細胞が少ない事から、幹細胞由来の液性因子による歯周組織再生が可能ではないかと仮説を立てた。我々は、ラット歯周組織欠損モデルを用いて、歯根膜幹細胞由来培養上清の投与方法を検討した。結果として培養上清を48時間後に回収し、その後限外濾過によって濃縮、コラーゲンスポンジを用いて欠損へ投与する方法を見出した。この方法を用いて、歯根膜幹細胞、および皮膚由来線維芽細胞、細胞無しコントロール上清を作製し、ラット歯周組織欠損への投与を行った。手術後4週間でサンプルを回収しマイクロCTを用いて硬組織形成を評価したところ、歯根膜幹細胞由来培養上清は他の上清と比較して、歯周組織の再生量を増強する結果を得た。現在、この現象の再現性の確認とメカニズムの検証を行っている。 本研究は間葉系幹細胞培養上清が歯周組織再生に有用であるか否かを検討する事を目的としており、平成24年度に得られた結果は、培養上清がサイトカイン、増殖因子、幹細胞移植とは異なる新たなコンセプトに基づく新規歯周組織再生治療の可能性を示していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は本研究の初年度にあたるため、まず細胞から得られる培養上清の採取の方法、その後の処理方法についての検討に時間を割いた。この段階は今後2年間にわたる本研究全体を左右する重要なステップと考えられるため、多くの時間が費やされた。培養上清を濃縮するか否か、上清を回収するための培養時間をどれほどの長さに設定するか、培養上清を保持する移植担体には何が適切であるか、について検討を重ね、結果として培養上清を動物モデルに投与する適切な方法を確立することができたと考えている。この方法が確立できたことにより、今後の動物実験を確実かつ迅速に実行することが可能と思われる。確立された方法を用いて培養上清を動物モデルに移植し4週後にマイクロCTを撮影し再生量を評価したところ、歯根膜幹細胞から得られた培養上清が他の培養上清と比較して、歯周組織の再生量を増強していた。この結果は、我々が本研究を立案する際に立てた仮説が部分的に正しいことを示しており、今後の研究を本研究の計画通りに進めることの根拠となると考えられる。また、培養上製中に含まれる、増殖因子、サイトカインの検討が次年度に予定されているが、この点については動物実験でのポジティブなデータを受けて前倒しで実験を開始した。得られたデータを現在解析中であり、ここから得られる結果により、培養上清による歯周組織再生メカニズムの解明と、さらに進んだ再生治療の開発が可能ではないかと期待している。以上の経過から研究計画はおおむね順調に進行しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究によって歯根膜幹細胞培養上清の歯周組織欠損への投与が歯周組織再生に有用であることを示唆するデータが得られた。この研究結果を受けて、有効な歯周組織再生治療確立のための基礎的研究を平成25年度に行う予定である。具体的には、培養上清中に含まれる再生に寄与する因子の特定、培養上清のより効果的な投与方法の検討が含まれる。培養上清に含まれる因子のうち研究対象として考えているのは種々の増殖因子およびサイトカインである。いずれも生化学的な方法で含有量の測定が可能であり、論文的には創傷治癒に関与する候補がいくつか報告されている。これらの情報を基に、培養上清中に含まれる増殖因子、およびサイトカイン量を計測し、再生効果を示さなかった線維芽細胞由来培養上清と再生効果を示した歯根膜幹細胞由来培養上清の間において量的な差を示す因子を特定する。さらに最近、幹細胞から放出される微小小胞の中に含まれるmiRNAやタンパクが他の細胞へ情報を伝達するという事が報告されるようになり、本研究で使用している培養上清中においても何らかの作用を有している可能性がある。この点についても検討を予定している。特定因子の効果判定には培養細胞を用いて検討する予定である。平成24年度にはコラーゲンスポンジを担体として培養上清を局所へ投与する方法を採用していたが、より効果的に培養上清を作用させ再生量を増強する投与方法の検討が可能と考えられる。平成24年度に得られたデータを受けて上記の様な検討を予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究においても動物実験とin vitroの実験を並行して実施する予定である。研究費の使用については、動物実験を進めるにあたって必要となる、動物の維持管理費用、および実験試料作製に掛かる費用が必要となる。またIn vitroの研究においては、培養細胞の培養における消耗品、試薬の購入が必要となる。また、種々の細胞機能評価に掛かる試薬の購入も必須である。研究費用の多くは、この3点に費やされるものと考えられる。実験設備については、東京医科歯科大学学内の供用研究施設を活用し経費の削減に努めて行い、現在のところ実験備品の購入は予定していないが、データ解析のためのコンピュータの購入が必要と考えられる。 平成24年からのデータの一部を学会にて発表する必要があることから、平成25年度には2回程度の学会発表を予定しており、学会参加に際して必要となる参加費、交通費、滞在費用の捻出を計画している。 平成25年度は当初予定していた研究費の使用計画に従う形での使用となる予定である。
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