研究課題/領域番号 |
24593122
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
柴 秀樹 広島大学, その他の研究科, 准教授 (60260668)
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研究分担者 |
藤田 剛 広島大学, 大学病院, 講師 (80379883)
武田 克浩 広島大学, その他の研究科, 助教 (10452591)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 歯周外科学 / 歯周組織再生 / 幹細胞 / 細胞外基質 / LL37 / 再生3要素 |
研究概要 |
実験1:細胞培養系を用いて、調節因子としてのLL37(合成ペプチド)がラット(F344 Fischer、9週齢、体重約200 g)大腿骨骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)の骨分化や血管新生に及ぼす影響を調べた。LL37は、MSCの細胞増殖を促進したが、石灰化結節形成や骨関連タンパク質(Runx2, Smad7, Spp1, ALP, BMP-2, および オステオカルシン)の遺伝子発現には影響を及ぼさなかった。LL37は、培養血管内皮細胞の管腔形成を促進した。 LL37による骨再生能を評価するために、ラット頭蓋骨に作製した直径1.6 ㎜の骨欠損にLL37(担体はコラーゲンスポンジ)移植した。LL37は、コントール(PBSが浸漬されたコラーゲンスポンジ)と比較して、術後4週の欠損部に多くの再生骨が観察された。術後1週でLL37群とコントロール群の欠損部を比較した時、LL37群には、より多くのSTRO-1(MSCの陽性マーカー)陽性の細胞および管腔形成が認められた。以上のことから、LL37による骨形成促進は、MSCの欠損部へのリクルート、増殖および血管新生の促進によって生じている可能性が示された。 実験2:アスコルビン酸添加培地で7日間培養したMSCは豊富なECMを産生し、シート状になっていた。シート状のECMを含むMSCを折りたたむことによって、小型球状にしたMSC集塊(B-MSC)を作製、引き続き骨分化誘導培地で7日間培養した。骨分化誘導されたB-MSCによる骨再生能を評価するために、ラット頭蓋骨に作製した直径1.6 ㎜の骨欠損にB-MSCを移植した。B-MSCは、コントール(MSCとコラーゲンスポンジ複合体)と比較して、術後4週において欠損部に多くの再生骨が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は骨髄間葉系幹細胞(MSC)あるいはサイトカインを用いて、多様な歯周組織病変に対応できる歯周組織再生療法の開発を目指している。再生3要素は、細胞、足場および調節因子である。MSC移植治療において、足場や調節因子によってMSC移植後のMSC周囲の環境を整え、MSCが機能を十分に発揮できる状態を創出できれば、重度に(大規模に)破壊された歯周組織の再生が可能になると仮説し、本研究を着想した。 本研究の目的は、MSCが産生した細胞外基質(ECM)(足場)と血管新生能を有する抗菌ペプチドLL37(調節因子)というMSCの細胞分化を支える環境因子とMSCで構成される小型の球状の3要素複合体(複合体ビーズ、B-MSC)を作製し、欠損形態に合わせて複数の複合体ビーズを移植することによる大規模な歯周組織欠損部の再生である。 初年度は小規模骨欠損に対するLL37とMSCが産生したECMのMSCに及ぼす効果を調べた。その結果、LL37による骨形成促進が、MSCの欠損部へのリクルート、増殖と血管新生の促進によって生じていること、および、B-MSCの効果的な骨再生能を示した。このようにLL37(調節因子)とMSC-が産生したECM(足場)はMSCが機能を発揮できる環境を創出可能な因子であることが明らかとなった。初年度予定していた研究成果をほぼ得られたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
初年(24年度)度に、LL37(調節因子)とMSCが産生したECM(足場)は、MSCの機能を十分に発揮させることのできる環境因子であることを示した。今後は、足場としてMSCが産生したECMと調節因子としてLL37によるMSCの骨分化や血管新生メカニズムを細胞培養系によって調べること、さらに、実験動物(ビーグル犬)に、実験的に大規模の歯周組織欠損を作製し、3要素複合体ビーズ(MSC、MSCが産生したECM、LL37)を欠損の形態に合うよう複数移植し、再生を組織学的に評価することを計画している。 細胞培養系の実験は、柴と藤田が、動物実験は柴と武田が中心に担当する予定である。培養関係の消耗品に加えて、受容体や細胞内情報伝達因子の阻害剤やそれらに対する抗体(中和抗体)、また、実験動物購入と飼育費が必要となるため、それらの研究費を計上している。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度の研究計画は足場としてMSCが産生したECMと調節因子としてLL37によるMSCの骨分化や血管新生促進メカニズムを細胞培養系によって調べる。さらに、実験的に大規模の骨欠損を作製し、3要素複合体ビーズ(MSC、MSCが産生したECM、LL37)を欠損の形態に合うよう複数移植し、再生を組織学的に評価する。 細胞培養系の実験として、ECMとLL37によるMSC機能発現メカニズムを解明するために、ECMについては、ECM中の細胞からの液性因子としてVEGF、ECMの構成分子であるフィブロネクチンとビトロネクチンに着目し、MSC機能発現誘導のメカニズムを解析する。LL37については、LL37の作用がEGFレセプターのtransactivation(Tjabringa et al., 2003)およびP2X7レセプターを介して生じる(Elssner et al., 2004)ことに着目する。さらに、機能発現に関わる細胞内シグナル分子を解析する。 動物実験としては、歯周組織再生における再生3要素複合体の影響 (大規模欠損)を調べるために、ビーグル犬の小臼歯の分岐部に歯根の3/4の骨吸収を伴う3級の分岐部欠損を作製し、複数の複合体ビーズ(移植体)を移植し、4週、8週後に再生を評価する予定である。 このように、培養関係の消耗品に加えて、受容体や細胞情報伝達因子の阻害剤やそれらに対する抗体(中和抗体)、また、実験動物購入と飼育費が必要となるため、研究計画に基づき、無駄のないよう研究費を使用する。
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