研究課題/領域番号 |
24593122
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
柴 秀樹 広島大学, 医歯薬保健学研究院(歯), 准教授 (60260668)
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研究分担者 |
藤田 剛 広島大学, 大学病院, 講師 (80379883)
武田 克浩 広島大学, 医歯薬保健学研究院(歯), 助教 (10452591)
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キーワード | 歯周外科学 / 歯周組織再生 / 幹細胞 / 細胞外基質 / LL37 / 再生3要素 |
研究概要 |
実験1:調節因子としてのLL37(合成ペプチド)が培養ヒト歯周靭帯細胞の血管内皮細胞増殖因子(VEGF)発現に及ぼす影響とその発現メカニズムを調べた。LL37はVEGF-Aの発現をmRNAおよびタンパク質レベルで促進した。一方、LL37は、VEGF-Bの発現には影響を及ぼさなかった。細胞内シグナル因子であるERKとNF-kappa Bのインヒビターは、LL37によって誘導されたVEGF-A発現の促進を抑制した。LL37はリン酸化ERK1/2とNF-kappa B p65発現量を増加させた。 実験2:24年度にアスコルビン酸 (50 micro g/ml) 添加培地で7日間培養したラットの骨髄間葉系幹細胞(MSC)は豊富な細胞外基質(ECM)を産生し、シート状になった。シート状のECMを含むMSCから小型球状のMSC集塊(B-MSC)を作製し、さらに骨分化誘導培地(OIM)で7日間培養した。骨分化誘導されたB-MSC一つをラット頭蓋骨に作製した直径1.6 ㎜の骨欠損に移植したところ、B-MSC移植群では、コントール(MSCとコラーゲンスポンジ複合体)と比較して、術後4週の欠損部に多くの再生骨が観察された。In vivoでより効率的に骨再生を促すB-MSCを作製するため、本年度は、5および10日間、増殖培地のみ(GM)およびOIMで培養したB-MSCの性状を比較した。B-MSCの主要なECMはI型コラーゲンであることを示した。OIMで培養したB-MSCの骨関連タンパク質発現量(オステオポンチン、ALP)と石灰化量は経時的に増加し、さらにGMと比較して多かった。しかしながら、10日間OIMで培養したB-MSC中のアポトーシス細胞数は、5日間GMあるいはOIMで培養したB-MSCと比較して著しく増加した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者はMSCあるいはサイトカインを用いて、多様な歯周組織病変に対応できる歯周組織再生療法の開発を目指している。再生3要素は、細胞、足場および調節因子である。MSC移植治療において、足場や調節因子によってMSC移植後のMSC周囲の環境を整え、MSCが機能を十分に発揮できる状態を創出できれば、重度に破壊された歯周組織の再生が可能になると仮説し、本研究を着想した。本研究の目的は、MSCが産生したECM(足場)と血管新生能を有する抗菌ペプチドLL37(調節因子)というMSCの細胞分化を支える環境因子とMSCで構成される小型の球状の3要素複合体(複合体ビーズ)を作製し、欠損形態に合わせて複数の複合体ビーズを移植することによって、大規模な歯周組織欠損部を再生させることである。25年度は、細胞内シグナル分子に着目し、LL37によるVEGF発現促進メカニズムを明らかにした。より効果的・効率的に骨を再生させるため、培養条件を変えてB-MSCを培養し、その性状を調べた。さらに、すでに、ラットおよびビーグル犬において、大規模欠損(ラット:頭蓋骨の大規模欠損(すでに本実験を行っている)、ビーグル犬:下顎臼歯部の大規模歯周組織欠損(予備実験を行っている)を作製し、複数のB-MSCをすでに移植している。B-MSCを用いた大規模骨(歯周組織)欠損を再生させるために必要な成果が25年度においても得られたと考える。ただし、in vivo(26年度の予定を含む動物実験)、LL37の実験および論文作成を中心に行なった結果、ECM中のコラーゲンやフィブロネクチンがMSCの機能発現に及ぼす影響についての実験を行えなかった。
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今後の研究の推進方策 |
24年度、25年度の研究成果からLL37(調節因子)とB-MSCが骨再生(歯周組織再生)に有用であることを示し、大規模欠損再生のための準備が完了した。26年度は、足場としてMSCが産生したECMと調節因子としてLL37がMSCの骨分化や血管新生に及ぼすメカニズムを細胞培養系によって調べる。細胞培養系の実験では、ECMがMSCの細胞機能発現に与える影響を重点的に解析して行く。さらに、実験動物(ビーグル犬)に、大規模の歯周組織欠損を作製し、3要素複合体ビーズ(MSC、MSCが産生したECM、LL37)を欠損の形態に合うよう複数移植し、再生を組織学的に評価する。細胞培養系の実験は、柴と藤田が中心に、動物実験は柴と武田が中心に担当する予定である。培養関係の消耗品に加えて、受容体や細胞情報伝達因子の阻害剤やそれらに対する抗体(中和抗体)や細胞外基質に対する抗体、また、実験動物購入と飼育費が必要であり、それらの研究費を計上している。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は動物実験、B-MSCの性状、VEGF発現に及ぼすLL37の影響および研究成果である論文作成(2つの論文の受理、一つは投稿中)に多くの時間と労力をかけ、十分な研究成果をあげることができた。一方、細胞培養系の実験系で、ECM中の細胞外基質(フィブロネクチンやコラーゲン)がMSCの機能発現に及ぼす影響(メカニズムの解明)を十分に調べることができなかったため、25年度残高が生じた。計画された研究実施時期(論文作成時期を含む)の変更によって、次年度への使用額が生じた。 生じた使用額(25年度の残額)は、25年度に実施できなかったECM中の細胞外基質成分がMSCの機能発現に及ぼす影響を細胞培養系で調べるために使用する。構成成分としては、I型コラーゲンとフィブロネクチンに着目する。この実験は25年度と26年度に計画していた実験であり、動物実験やLL37の細胞機能発現(血管新生)に及ぼす影響に関する研究が予定より進んでいるので、26年度に、26年度の予定の実験および25年度にできなかった実験の両方を行なうことは可能である。
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