研究実績の概要 |
H24と25年度では,口腔上皮細胞の低酸素培養により細胞内のHIF-1aが増加し,DNAマイクロアレイ分析で237個の遺伝子の発現変動が認められた。特に,炎症に関連するTNF-aやVEGFやadrenomedullinなどの発現が増加した一方,抗菌ペプチドcalprotectin(S100A8/ S100A9, CPT)の減少が認められた。H26年度は,chetomin(CTM)等のHIF-1a阻害剤による低酸素誘導性作用への影響を検討した。CTMは低酸素環境で増加したHIF-1aの発現を低下させ,低酸素で増加したADMやVEGF発現を抑制し,減少したCPTの発現を回復させた。一方,TNF-aでは一定の効果は認められなかった。これらの結果から,HIF-1a阻害により低酸素による炎症反応は部分的に改善され,抗菌ペプチド発現の低下は回復されることが判明した。低酸素刺激のシグナル経路の検討では,低酸素刺激によりHIF-1aの増加とともにS100A8とMAPKのERKのリン酸化が低下し,CTMは低酸素刺激で低下したERKのリン酸化を回復させた。HIF-1aはCPT発現のnegative regulatorである可能が示された。一方,低酸素環境でのP.gingivalis由来LPS(P-LPS)と最終糖化産物(AGE)の影響を調べる予備実験では,AGEとP-LPSはCPT発現を軽度に減少させ,IL-6とVEGFを増加させた。さらに,AGEとP-LPSの併用によりICAM-1発現の増加が認められた。 研究全体の結果から歯周ポケット内での低酸素環境は,炎症や血管新生因子の発現を増加させ,自然免疫に関連する抗菌ペプチド発現を減少させることが示唆された。歯周ポケット内の低酸素環境の改善や主要因子であるHIF-1aの阻害は宿主を対象とした新たな歯周病治療に繋がる可能性がある。
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