研究課題/領域番号 |
24593126
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
吉村 篤利 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (70253680)
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研究分担者 |
金子 高士 長崎大学, 大学病院, 講師 (10284697)
原 宜興 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (60159100)
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キーワード | 歯周炎 / 歯肉縁下プラーク / Toll-like receptor / 歯肉炎指数 / 年齢 / 性別 |
研究概要 |
プラーク中の菌体成分は、Toll-like receptor (TLR)などのパターン認識レセプターにより最初に認識される。 菌体成分を認識すると直ちに自然免疫系は活性化し、歯周組織に炎症反応を惹起する。この反応は感染防御のために必須であるが、結果として歯槽骨吸収などの組織破壊も引き起こす。有益な感染防御能を損なうことなく組織破壊を最小限に抑えることができれば、歯周疾患の進行を抑制するために役立つことは間違いない。本研究は、TLRを介したプラークからの刺激を標的として、歯周組織の炎症反応を制御することを目的とした基礎的研究である。 本年度は、主に歯肉縁下プラークのTLR2およびTLR4刺激作用についての解析を進めた。長崎大学病院に来院した歯周病患者に研究内容を説明し同意を取得した後、歯周ポケット最深部位から歯肉縁下プラークを採取した。同時に被験者の全身状態と被験部位の歯周組織の状態を記録した。各患者から採取したプラークでNF-κBレポーター細胞を刺激し、検量曲線との対比によりTLR2およびTLR4刺激作用を測定した。その結果、歯肉縁下プラークのTLR4刺激作用と採取部位のプラーク指数に正の関連が認められた。また、TLR2刺激作用と年齢および性別にも弱い正の関連が認められた。これらの結果から、歯肉縁上プラークの細菌の蓄積が歯肉縁下プラークのTLR4刺激作用に影響を与え、年齢、性別などの宿主要因がTLR2刺激作用に影響を与えている可能性が示唆された。 これらの結果は、歯肉縁下プラークのTLR2およびTLR4刺激作用を制御する因子を明らかにしたものであるが、これらの因子がどのように作用してTLR2およびTLR4刺激作用を変化させるのか、また、歯周疾患の活動性にどのように影響しているのかは、さらに解析が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究から、歯肉縁下プラークのTLR2およびTLR4刺激作用を制御する因子が明らかとなった。また、昨年度の研究では、TLR4遺伝子多型rs11536889が、マイクロRNAの結合を介して宿主細胞のTLR4発現量を調節していることが明らかとなった。これらの研究結果は、歯周組織の炎症反応を大きく左右すると考えられる歯肉縁下プラークに対するTLR2およびTLR4を介した宿主応答がどのようにして制御されるかを明らかとしたものであり、期待以上の成果と言える。特に、歯肉縁下プラークのTLR4刺激作用は歯肉縁上プラークの蓄積と関連が深いことから、歯肉縁上プラークの除去は、歯肉縁下の炎症の制御に重要であることが再確認された。しかしながら、これらのTLR2やTLR4を介した細胞刺激がどのように歯周病の進行に関与しているかについては、さらに詳細な解析が必要である。また、歯肉縁下プラークのTLR2刺激作用に影響を与える性別や年齢、宿主細胞のTLR4発現量に影響するTLR4遺伝子多型rs11536889などの危険因子に対しては、どのようにしてリスクを減少させることができるのか今後検討していく必要がある。これらを総合的に判断して、全体としてはおおむね順調と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24~25年度の研究により、TLR4遺伝子多型rs11536889と宿主細胞のTLR4発現量の関連や歯肉縁下プラークのTLR2およびTLR4刺激作用とこれを制御する因子との関連が明らかとなった。これらの結果を踏まえて、平成26年度の研究計画を下記のように修正する。 1.TLR4遺伝子多型rs11536889と歯周炎進行との関連を明らかにするため、rs11536889におけるG/G、G/C、C/C遺伝子型被験者それぞれ約10名を対象として、歯肉線維芽細胞と歯周組織の状態について比較検討する。研究内容について十分に説明を行い、研究協力に同意の得られた被験者より、歯周外科時に切除され不要となった歯肉の提供を受け、その一部を用いてTLR4遺伝子rs11536889の遺伝子型をスクリーニングする。各遺伝子型被験者から樹立された歯肉線維芽細胞をLPSで刺激して、反応性を比較する。歯肉線維芽細胞をLPSで刺激してIL-6などの炎症性サイトカイン、matrix metalloproteinaseの産生量や増殖率やアポトーシスへの影響について各遺伝子型群間で比較する。また、遺伝子型が明らかとなった被験者の歯肉溝から歯肉溝滲出液と歯肉縁下プラークを採取し、歯肉溝滲出液中のサイトカインレベルと歯肉縁下プラークのTLR4刺激性、細菌学的組成を比較し、歯周病進行への影響を解析する。 2.歯肉縁下プラークのTLR2およびTLR4刺激作用と歯周炎進行との関連を明らかにするため、研究内容を説明し同意の得られた歯周病患者の4mm以上の歯周ポケットが存在する部位からプラークを1年間にわたって3ヶ月に1回、経時的に採取する。各患者から採取したプラークで、NF-κBレポーター細胞を刺激し、その活性化度と歯周組織の状態の関連について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度には借用していた他講座のReal time-PCRシステムが故障し、当教室でReal time-PCRシステムを購入することとなった。このため、購入物品の内訳を大きく変更した。しかしながら、平成25年度予算使用状況は当初予算の98~99%であり、ほぼ予定通りと言える。 平成25年度の予算の98%以上は執行しており、平成26年度もほぼ予定通り執行予定である。物品費に関しては、培養のための消耗品や試薬の購入などに当てる予定である。また、平成25年度の研究成果は学会で発表予定であり、学会旅費も使用予定である。平成25年度は使用機器が故障したため備品購入を行ったが、平成26年度は現有の備品を使用予定であり、特に備品購入の計画はない。
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