一人の術者が複数の歯周炎患者に対し同一の基本治療を行っても,プロービング深さの減少量は患者毎に異なる。治療に対するこのような反応性(プロービング深さ減少量)の違いは,患者の創傷治癒能力の違いにも起因すると考えられる。本研究課題では,歯肉溝滲出液(GCF)について多種のサイトカイン量を同時に定量すること(GCFプロファイリング)により,基本治療に対する反応性と密接に関連するGCFプロファイルを明らかにすることを目的とした。 九州歯科大学附属病院歯周病科に来院した慢性歯周炎患者に対して歯周組織検査を行った後,研究の主旨を説明した。その結果,研究への参加について同意が得られた10名(男性6名,女性4名)を被験者とした。2回目の来院時に,プロービング深さが4 mm以上の部位(大臼歯を除く)を被検部位として1部位選択しGCFを採取した。口腔清掃指導,歯肉縁上歯石の除去に引き続き,被検部位からGCFを採取し浸潤麻酔下でスケーリング・ルートプレーニング(SRP)を行った。その1週間後に再度,GCFを採取した。抗体アレイキット(Ray Bio® Human Cytokine Antibody Array C3)中の抗体アレイメンブレンに採取したGCFを反応させ,生じた化学発光をChemiDoc XRS Plus システム(Bio-Rad社製)によって画像解析しGCF中のサイトカイン量を決定した。 その結果,SRP前後で抗体アレイメンブレンにて測定可能な40種のうち主に5種類(IL-1α,IL-8,IL-16,RANTES,TNF-β)のサイトカイン量が変化していることが明らかになった。しかし,今回の測定方法は半定量的な測定系であるため,今後は変化が認められた主要なサイトカインを定量的に測定し,SRPによる歯周ポケット深さの減少との関連についてさらに詳細に検討する予定である。
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