研究実績の概要 |
主な歯牙喪失原因の一つである歯周病において、歯槽骨の病的骨吸収による歯牙の動揺や喪失を予防し治療することは、歯科臨床現場の重要な課題である。また、歯周組織の広範囲な炎症や歯周病原菌と全身疾患との関連性も注目されている。そこで、破骨細胞が脂質異常によりどのような影響を受けているのかを検討した。方法は、whole-cell patch clamp法、western blot法、PT-PCR法、real-time PCR法、免疫染色法を用いた。破骨細胞は、マウス骨髄細胞及びRAW264.7細胞から誘導した。 whole-cell patch clamp法を用い、高脂血症治療薬・スタチンや骨粗鬆症治療薬・窒素含有ビスフォスフォネートを細胞外液に添加すると、細胞外液の酸性化により活性化されるCl-電流(ICl-, acid)が抑制されることを確認した。しかし、非窒素含有ビスフォスフォネートでは抑制されなかった。また、窒素含有ビスフォスフォネートの抑制部位であるFdpsをノックダウンした細胞では分化とともにICl-, acidが有意に抑制された。これらの結果から、高脂血症治療薬によって破骨細胞の酸分泌が抑制されることを明らかとなった。 破骨細胞前駆細胞に対し、歯周病原細菌の受容体TLR2及びTLR4のリガンドと、脂質異常症の原因物質である酸化LDLとで刺激すると破骨細胞数が増加したが、骨髄細胞に同様の刺激をおこなっても影響がなかった。TLR2及びTLR4のリガンド刺激によって酸化LDL受容体の発現は増加し、それはTLR signalの下流であるMyD88の発現と同じ傾向を示した。 以上により、TLRs下流にLox-1発現に関与するシグナルの存在の可能性が示された。また、ともに生活習慣病である脂質異常症と歯周病との合併により破骨細胞の分化が亢進する可能性が示された。
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