本研究の目的は,口腔機能訓練のさらなる有用性を明らかにするために,特定高齢者を対象とした運動器機能訓練実施の際に口腔機能訓練を同時に行うことで,身体機能の改善状態に影響を及ぼすかどうかについて検証を行うことであった。研究参加の同意を得た対象者全員に運動器機能訓練を実施し,加えて介入群に対しては口腔機能訓練,歯科衛生指導を実施した。3か月後,ベースライン調査と同様の基準で評価を行い,介入前後のデータが揃った106名(介入群:60名,対照群:46名)について,口腔機能訓練によって運動機能訓練に対して増強効果が出たか否かの検証を行った。 本研究では開眼片足立ち保持時間に着目し,これを目的変数としたロジスティック回帰分析を行った。説明変数として,Model 1: ベースライン時の歯の本数,Model 2:オーラルディアドコキネシス(OD)が改善したか否かを用い,さらに年齢,性別,口腔機能訓練の介入を行ったか否かなどの基本情報を説明変数として分析を行った。 Model 1では,保持時間の改善に口腔機能訓練の介入と歯の本数は有意に関連していた(口腔機能訓練:オッズ比[95%信頼区間]= 2.68 [1.04-6.89],歯数:1.06 [1.01-1.12])。また,Model 2では口腔機能訓練の介入,ODの改善がそれぞれ有意に関連していた(口腔機能訓練:4.83 [1.14-20.6],ODの改善:8.69 [1.26-60.0])。 以上の結果より,開眼片足立ち保持時間の改善に,ODで示される口腔機能の改善および口腔機能訓練の介入が関連していることが示唆された。これは口腔機能訓練が口腔およびその周辺組織の機能改善に結びつき,平衡性の改善に寄与したことが考えられ,2つの訓練を併用することによって,より効果的な訓練結果を得られる可能性を示唆するものである。
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