研究課題/領域番号 |
24593146
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野原 幹司 大阪大学, 歯学部附属病院, 助教 (20346167)
|
研究分担者 |
若杉 葉子 東京医科歯科大学, 歯学部, 非常勤講師 (20516281)
高井 英月子 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (30532642)
|
キーワード | 嚥下障害 / 誤嚥 / 嚥下内視鏡 / 気道クリアランス / 肺炎球菌 |
研究概要 |
嚥下内視鏡は嚥下臨床で有用であり,誤嚥の検出力も高いことが知られている.しかしながら,内視鏡で誤嚥が確認されても肺炎や発熱に繋がらない症例が散見される.本研究では昨年度に,内視鏡で確認された誤嚥の有無と,炎症の有無や発熱の有無に有意な関係が無いことを明らかとした.その結果から,誤嚥は肺炎発症の一因子であり,他の因子,すなわち宿主側の抵抗因子を検討する必要が示された. これまでの報告では,誤嚥を発熱につなげないためには,気管の線毛運動が重要であると言われている.われわれは鼻腔と気管の線毛運動が相関することに着目し,サッカリンテストを用いて鼻腔の線毛運動を昨年度から被験者を増やして評価した.対象は施設入所中で意思疎通が可能であり,かつ内視鏡にて誤嚥が確認された高齢者28名とした.対象者全員のサッカリンタイム(ST)を測定し,肺炎の既往の有無で2群に分けて,2群間のSTを比較した結果,肺炎の既往有群の方が有意差をもって延長している傾向がうかがえた.また,STが120分を超えて延長していたものは前例において肺炎の既往があった.この結果から,STが長い症例においては,気道粘液クリアランス機能が低下しているために,誤嚥物が排出できずに肺炎を生じやすい可能性が考えられた.このデータは,引き続き被験者を増やして検討を続けていく予定である. 侵襲の因子としては,誤嚥の有無以外に,肺炎を生じやすい口腔内細菌のフローラがある可能性がある.高齢者の肺炎の原因菌として最も多いのは,肺炎球菌といわれており,この菌は口腔内フローラとして存在していることがある.したがって,肺炎球菌の保菌をPCRで調べ,その結果と肺炎発症の有無について高齢者14例において検討した.その結果,肺炎を発症した高齢者では肺炎球菌の保菌率が高い傾向にあった.このデータも,今年度引き続き被験者を増やして検討する予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
気道粘液クリアランスの研究を進めるにあたり,クリアランスの指標としてサッカリンタイムを測定することとした.昨年度は肺炎発症の既往ありとなしの2群間では,サッカリンタイムに統計学的な有意差が認められなかったが,本年度は被験者を増やしたところ,有意差が認められた.また,サッカリンタイムが120分を超える被験者においては,全例が肺炎を発症していた.この結果は,当初の仮説である気道クリアランスの低下と肺炎発症の関係を支持するものであり,順調に研究が進んでいるといえる. 一方,今年度は侵襲因子の一つとして口腔内細菌のフローラに着目し,肺炎球菌の保菌の有無と肺炎発症についても検討を開始した.肺炎球菌の保菌を調べるにあたり,簡易測定キットの使用を試みたが,数例で実際に調べた結果,保菌の検出は不可能であることが分かった.保菌の有無についてPCRの使用を試みた結果,PCRでは保菌の有無を調べられることが明らかとなった.この結果から,侵襲因子の一つである肺炎球菌の保菌を調べる方法を確立できた.これも順調に研究が進んでいることを示しているといえる. 実際の結果として,被験者数が少ないものの,肺炎球菌の保菌の有無と肺炎発症に有意な関係があることがうかがえた.これもパイロット研究としては順調な結果であり,この結果をもとに,さらに研究を進めていく予定である. 対象となる被験者数が,全般的に少なめであり,研究全体の達成度としては,やや遅れていると考えられるが,この遅れはこれから取り返すことが可能な範囲内と考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き,嚥下内視鏡検査(VE)で観察される誤嚥の有無が,誤嚥性呼吸器疾患の発症にどの程度関連するかを検討していく.基本的な方法は,昨年度と同じであり,今年度はデータ数を増やすことに重点を置く.被験者は当部受診の嚥下障害患者(呼吸器以外に炎症性疾患を有するものは除く)とし,目標被験者数は200例とする. 加えて,誤嚥を認めた症例の気道粘液線毛クリアランスを測定し,それら結果が呼吸器疾患発症の有無にどの程度影響を与えているかの検討も行う.気道粘液線毛クリアランスについては昨年度の28例のデータがあるが,まだまだ少ないため,研究協力を依頼している施設にて,さらにデータを増やし,最終的には60例の採取を目標とする. 侵襲因子の一つである肺炎球菌の保菌と肺炎発症の有無については,まず肺炎球菌の保菌を調べる方法が確立でき,肺炎発症との関連の傾向がうかがえた.パイロットスタディーとして,方法論は確立できたと考えられるため,今後はデータを増やしていく予定である.最終的には,肺炎発症の既往がある症例を30例,既往が無い症例を100例集めたいと考えている.
|
次年度の研究費の使用計画 |
当該年度は,とくに口腔内細菌のフローラの標的細菌を何にするかに調査時間を要した.また,標的細菌を肺炎球菌とすることが決まってからも,その保菌を調べる方法論として,簡易測定キットを用いたり,種々の方法でPCRを行ったりしていたため,その方法論の確立に時間を要した.そのため,被験者を増やすことが十分にできなかった.被験者を増やし,その解析を行うにあたり,人件費や謝金が生じるが,その分の使用額が次年度に繰り越されたことが理由としてあげられる.加えて,次年度はPCRでの解析件数が増えるため,当該年度にはその試薬を多く購入しなかった.それも繰越金が発生した理由の一つである. 今年度は,口腔内細菌叢のなかの肺炎原因菌を調べるため,市中肺炎の原因菌として多いとされる肺炎球菌のPCR法を行う予定である.これらはPCRの試薬に研究費を要する.この試薬費に繰り越した研究費を用いる計画である.また,今年度はデータ採取に重きを置く予定である.したがって,データ採取時に必要となる記録媒体,データ整理のためのコンピュータ環境の整備,移動費,研究協力者への謝金等に研究費を使用する予定である. 現在のペースでデータを採取すると,夏ごろには一部の研究成果を発表できるデータがそろう予定である.その結果を,国際嚥下学会で発表し,国外の研究者と意見を交換することで,さらに質の高い研究デザインとして行く予定である.その意見交換のために,今年度の研究費の一部を使用する予定である.加えて,和文および英文論文も作成していくが,その際の英文校正費や投稿費用にも用いる予定である.
|