研究課題/領域番号 |
24593146
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野原 幹司 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 准教授 (20346167)
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研究分担者 |
若杉 葉子 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (20516281) [辞退]
高井 英月子 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (30532642)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 嚥下内視鏡 / 誤嚥性肺炎 / 気管線毛運動 / サッカリンテスト / 誤嚥 |
研究実績の概要 |
嚥下内視鏡は嚥下臨床で有用であり,誤嚥の検出力も高いことが知られている.しかしながら,内視鏡で誤嚥が確認されても肺炎や発熱に繋がらない症例が散見される.本研究では昨年度に,内視鏡で確認された誤嚥の有無と,炎症の有無や発熱の有無に有意な関係が無いことを明らかとした.その結果から,誤嚥は肺炎発症の一因子であり,他の因子,すなわち宿主側の抵抗因子を検討する必要が示された. これまでの報告では,誤嚥を発熱につなげないためには,気管の線毛運動が重要であると言われている.しかしながら,これまで詳細が検討されていなかったため,われわれは鼻腔と気管の線毛運動が相関することに着目し,サッカリンテストを用いて鼻腔の線毛運動を評価することにより,その結果と肺炎・発熱の既往との関連を調査した.対象は施設入所中で意思疎通が可能であり,かつ内視鏡にて誤嚥が確認された高齢者54名とした.対象者全員のサッカリンタイム(ST)を測定し,肺炎の既往の有無で2群に分けて,2群間のSTを比較した結果,肺炎の既往有群の方が有意差をもって延長している傾向がうかがえた.また,STが120分を超えて延長していたものは前例において肺炎の既往があった. さらに,このなかから液体の誤嚥を認めた高齢者34名を抽出して,肺炎の既往の2群に分けた結果,肺炎既往群において有意にSTが延長しており,その傾向は誤嚥群全体で検討したときよりも強かった.この結果から,STが長い症例においては,気道粘液クリアランス機能が低下しているために,誤嚥物が排出できずに肺炎を生じやすい可能性が考えられた.また,その傾向は,液体誤嚥のときに顕著であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
気道粘液クリアランスの研究を進めるにあたり,クリアランスの指標としてサッカリンタイムを測定することとした.初年度は肺炎発症の既往ありとなしの2群間では,サッカリンタイムに統計学的な有意差が認められなかったが,昨年度から被験者を増やしたところ,有意差が認められた.また,サッカリンタイムが120分を超える被験者においては,全例が肺炎を発症していた.この結果は今年度被験者を増やしても同様の傾向にあった.加えて,気管の線毛運動の影響が大きいと考えられる液体誤嚥を呈している被験者を抽出して検討した結果,肺炎発症とサッカリンタイムにより強い傾向が認められた.この結果は,当初の仮説である気道クリアランスの低下と肺炎発症の関係を支持するものであり,順調に研究が進んだといえる. 一方,昨年から侵襲因子の一つとして口腔内細菌のフローラに着目し,肺炎球菌の保菌の有無と肺炎発症についても検討を開始した.保菌の有無についてPCRの使用を試みた結果,PCRでは保菌の有無を調べられることが明らかとなった.同方法を用いて研究を行った結果,被験者数が少ないものの,肺炎球菌の保菌の有無と肺炎発症に有意な関係があることがうかがえた.しかしながら,この研究は,研究協力を依頼した施設において肺炎を発症した高齢者が著しく少なかったことから,被験者を増やすことができなかった.この点については,今後,協力施設を増やして被験者を増やす予定である.その分の研究費の繰り越し申請を行った.7月ごろには,被験者を増やして結果が出せる予定である.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,嚥下内視鏡検査(VE)で観察される誤嚥の有無が,誤嚥性呼吸器疾患の発症にどの程度関連するかを検討していく.基本的な方法は,昨年度と同じであり,今年度はさらにデータ数を増やすことに重点を置く.ただし,内視鏡で観察される誤嚥の有無とサッカリンテストの関連については,ある程度被験者は集まり,統計処理もできているため,今年度はそれ以外の実験の被験者を増やすことを考えている. 侵襲因子の一つである肺炎球菌の保菌と肺炎発症の有無については,まず肺炎球菌の保菌を調べる方法が確立でき,肺炎発症との関連の傾向がうかがえた.特にこの実験については被験者が少ないため,今後は重点的にデータを増やしていく予定である.最終的には,肺炎発症の既往がある症例を30例,既往が無い症例を100例集めたいと考えている.これまでは,嚥下内視鏡で観察される誤嚥の有無と肺炎球菌の保菌については関連を検討してこなかったが,これから追加する被験者に対しては可能な限り嚥下内視鏡検査も行い,その関連を検討していきたいと考えている.もし被験者に内視鏡の同意が得られない場合には,食事中のムセの有無や水飲みテストによるムセなどを誤嚥の指標として用いることも検討している. 被験者数が集められれば,データの解析とその結果の学会発表,および論文作成を進めていく予定である.そのため解析補助の謝礼,統計の助言,英文校正等で繰り越した分の研究費を使用する予定としている.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は,肺炎球菌の保菌と肺炎発症の関連を明らかにすることを予定していたが,研究協力を依頼していた施設において,肺炎を発症した高齢者が著しく少なく,十分な被験者を集めることができなかった.そのため,データ採取・解析のための人件費や謝金,PCRでの解析に要する費用,およびその成果を学会や論文で発表するために費用を次年度に繰り越すこととなった.以上が,次年度使用額が生じたもっとも大きな理由である.加えて,これまでに得られた嚥下内視鏡で誤嚥が認められた被験者における誤嚥性肺炎発症とサッカリンテストとの関連のデータも,学会で発表したものの論文にできていない.そのための費用も次年度に繰り越すこととなった.
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は,口腔内細菌叢のなかの肺炎原因菌を調べるため,市中肺炎の原因菌として多いとされる肺炎球菌のPCR法を行う予定である.これらはPCRの試薬に研究費を要する.この試薬費に繰り越した研究費を用いる計画である.また,今年度はデータ採取に重きを置く予定である.したがって,データ採取時に必要となる記録媒体,データ整理のためのコンピュータ環境の整備,移動費,研究協力者への謝金等に研究費を使用する予定である. 現在のペースでデータを採取すると,5月中には一部の研究成果を発表できるデータがそろう予定である.その結果を,学会で発表し,論文にて報告していく予定としている.そのために,学会参加費や英文校正費や投稿費用にも研究費を用いる予定である.
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