脂肪細胞が産生するアディポカインは数多く報告されているが、その1つであるレジスチンは、ヒトではマクロファージや好中球など免疫細胞での産生量増加が報告されていることから、レジスチンは肥満と炎症を結び付けている可能性がある。レジスチンと歯周病との関連については、現時点では我々の報告しかなく、我々はすでに好中球において、歯周病細菌由来LPSによりレジスチン産生量の上昇を確認している。LPSは、ごく微量で脂肪組織や肝臓における脂質代謝に影響を及ぼすことが報告されており、LPSがマウスの肝臓や脂肪組織への脂肪沈着と体重増加を引き起こすことが報告されている。最近、ヒト肝細胞においてもレジスチンの発現とそのインスリン抵抗性の誘導メカニズムが報告されている。また、別のアディポカインであるPAI-1は、血液の凝集を引き起こし血栓形成と関連し、その産生量増加は動脈硬化や脳梗塞リスクを上昇させることが報告されている。ヒト破骨細胞に大腸菌由来LPSを添加することでPAI-1発現が上昇するとの報告もあり、歯周病における病態の進行でも同様のことが起こっているかもしれないが、歯周病原菌由来因子の関与を示す基礎的報告がほとんどないため、そのメカニズムは不明である。ヒト肝細胞と血管内皮細胞単独、またはヒト由来単球および好中球、単球系細胞との共培養条件下で、歯周病関連細菌菌体またはLPSで刺激し、レジスチンやPAI-1、各種サイトカインの発現について転写制御レベルおよび翻訳レベルでの解析を行った。レジスチンやPAI-1のRNA干渉およびJNK、MAPK関連抗体を用いて発現レベルを確認し、相互作用に対する影響およびシグナル伝達経路を解析し、歯周病による慢性炎症が糖代謝および動脈硬化に関係するメカニズムについて明らかにしつつある。
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