研究課題/領域番号 |
24593166
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
米澤 英雄 杏林大学, 医学部, 助教 (60453528)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ヘリコバクター・ピロリ |
研究概要 |
バイオフィルムとは固層―液層界面に形成するフィルム状構造体であり複合微生物群集である。細菌が形成するバイオフィルムには大きな2つの役割が確認されている。1つは浮遊状態の細菌とは異なる表現型を示すことであり、2つ目は外来抗菌性物質からの逃避という役割である。そこでピロリ菌が形成するバイオフィルムが、このような役割を担っているかについて検討を行った。 抗菌薬であるクラリスロマイシンで、バイオフィルム状および浮遊状細菌を処理すると、バイオフィルム状細菌は、浮遊状細菌と比較して、最小発育阻止濃度は約10倍、最小殺菌濃度は4倍、抵抗性を示した。またクラリスロマイシン耐性菌の出現頻度も、バイオフィルムで有意に高く出現することを明らかとした。抗菌薬抵抗性上昇は、ピロリ菌が所有する4つの異物排出機構がバイオフィルム状細菌で機能促進している結果であることが明らかとなった。以上結果は、バイオフィルムの2大役割を、ピロリ菌バイオフィルムも行っているという結果であり、これまで報告されていない新たな知見である。 バイオフィルム状細菌での異物排出機構機能促進が起きるメカニズムの解明を行った。Carbon storage regulator (CsrA)はpHに依存しない、ストレス応答性の制御機構であることから、CsrAに注目してバイオフィルム中での遺伝子制御の解析を行った。バイオフィルム中でのCsrAの発現量を定量した結果、バイオフィルム細菌では浮遊状細菌よりも、CsrAの発現量が有意に上昇していることが明らかとなった。これはバイオフィルム細菌において、CsrAが機能亢進していることを表わしている。そこでcsrA遺伝子領域を欠失させた変異株を作製し、欠失株でのバイオフィルム状細菌と浮遊状細菌とで、異物排出機構の機能促進について検討したところ、バイオフィルム状細菌での機能促進を認めることはなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画予定通りに、ピロリ菌単独での遺伝子発現制御機構の解明を行うことができた。これら結果については現在論文投稿中であり、さらにもう1つ別の論文として成果を発表する予定である。一方で、口腔内細菌との相互作用という面においては、少々研究が遅れている。現在口腔内細菌であり、う蝕原因菌であるS. mutansとH. pyloriの共凝集状態における遺伝子発現様式について検討を行っており、H. pylori単独での凝集状態と比較して、H. pyloriの病原性が上昇している知見を得ている。これらH. pyloriの病原性発現メカニズムを解明することや、他の口腔内細菌との相互作用についてのなどを、本年度明らかとする。
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今後の研究の推進方策 |
ピロリ菌と口腔内細菌との複合バイオフィルム、もしくは共凝集状態におけるピロリ菌のウレアーゼの発現量を、mRNAレベルおよびタンパクレベルで測定を行う。本結果において、ウレアーゼの発現が上昇していることが確認できれば、ピロリ菌は経口感染時に口腔バイオフィルムに取り込まれ、その際に口腔内細菌が産生するLuxSを介したオートインデューサーによりウレアーゼを高発現し、その状態で胃の中へと入り込むことで、ピロリ菌胃内への定着性が上昇する可能性が示唆される。そこでピロリ菌と凝集を示す口腔内細菌とを凝集状態のまま、ピロリ菌感染動物実験モデルであるスナネズミに投与することで、感染率にどのような変化を生じるかについて検討を行う。以上より、口腔内細菌によるピロリ菌の感染そして病原性への影響についての検討を行う。 さらに本年度から来年度にかけての研究計画として、若年者ピロリ菌感染者と非感染者における口腔細菌叢の比較を行う。H. pylori陽性および陰性者の唾液を検体として用いる。各種検体は兵庫医科大学ささやま医療センターより提供していただく予定であり、現在本学および兵庫医科大学における倫理委員会での審査を受けるべく準備中である。また検体提供者に関しては本研究の趣旨を理解していただくとともにインフォームド・コンセントを得る。唾液サンプルは菌属・菌群特異的プライマーを用いた定量的PCRやT-RELP法、またはpyro-sequence法を用いて口腔内構成細菌の同定とその分布解析を行い、H. pylori陽性、および陰性者とで比較検討を行うことで、ピロリ菌感染に影響を与える細菌の包括的な検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
mRNAを用いた定量的Real-time PCRやウレアーゼのモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロット法などの免疫応答系を利用した実験を行うためのPCR試薬およびReal-time PCR試薬、またウエスタンブロット法などの免疫応答系研究試薬を本年度も主として消耗品として購入する予定である。また唾液中の細菌叢の解析を行うための定量的PCRやT-RELP法、またはpyro-sequence法などの研究試薬を消耗品として購入する。得られた成果を発表するため、海外学会の旅費および論文投稿に関わる費用を計上する。
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