研究課題
ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染は急性および慢性胃炎を惹起するとともに、胃癌のリスクファクターとなる病原性細菌である。本菌は胃粘膜表層でバイオフィルムを形成し存在している。本菌バイオフィルム形成は、本邦除菌療法に使用されるアモキシシリン、クラリスロマイシン、メトロニダゾールなどの抗菌薬に対して抵抗性を亢進することを明らかとした。さらにクラリスロマイシン耐性菌の発生に深く関与していることを明らかとした。またバイオフィルム形成細菌では、定着因子である外膜タンパクや、病原因子であるウレアーゼの発現が亢進していることを明らかとした。本菌感染の大多数は5歳までに経口的に感染を起こす。H. pyloriがヒト胃内に定着する過程において、口腔内細菌より影響を受けているかについて検討した。H. pyloriは齲蝕原因細菌であるStreptococcus mutansや口腔内常在細菌であるS. sanguinisと非常に強い共凝集性を示し、共凝集状態においてH. pyloriウレアーゼの発現が有意に上昇していることを明らかとした。H. pyloriマウス感染モデルを使用した感染実験の結果、S. mutansと共凝集させたH. pyloriを感染させると、マウス初期定着数の上昇が認められた。次に5歳児 H. pylori感染者および非感染者の唾液中口腔内細菌の比較を行った。細菌叢目レベルにおいてH. pylori感染者ではStreptococcusが属するLactobacillalesが最優勢であるのに対して非感染者ではNeisserialesやPasteurellalesが最優勢であった。またStreptococcaceaeおよびStreptococcus属が占める割合も32.2%に対して24.2%、18.1%に対して14.1%と感染者で割合が高かった。以上の結果より、一部の口腔内StreptococcusはH. pylori感染時に、感染を促進する可能性があることが示唆された。
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